【ドミニカ共和国de協力隊 (13)】原因は何? 劣悪な教育環境

教室で。授業時間が始まってもおしゃべりに夢中の生徒たち教室で。授業時間が始まってもおしゃべりに夢中の生徒たち

ドミニカ共和国の北部、ロスイダルゴス市の小学校や高校で青年海外協力隊員として環境教育を推進する私の現場パートナーは、61歳のホセ・チャベスさん。彼は20年間ドミニカ共和国の教育現場を見てきた理系科目の教員で、日本や中南米諸国への留学経験もあるベテランだ。ある日彼に、「ドミニカの教育の質はどうなの」と聞いてみた。というのも、小学校の算数学力テストで、ドミニカ共和国は、中南米諸国13カ国中最下位いう結果をユネスコのレポート(2008年)で見たからだ。私の質問に、ホセさんは苦笑しながら「この国で教育の質なんて話題にするのはナンセンス。最悪だよ」と答えた。

■セックスを迫る教員

教育の質はなぜ、最悪なのだろうか。ホセさんがまず指摘したのは、教員の質の低さ。きちんとした教授法を習得せず、必要な知識がないまま教壇に上がる教員がほとんどだという。

確かに私も赴任当初、小学校の授業見学をさせてもらったが、教材研究や事前準備をしないまま、授業時間中ずっとおしゃべりをして体裁をあわせる教員が多かっ たことを覚えている。板書のスペルミスは当たり前。算数の授業では、計算ミスをして間違った答えを堂々と教えている教員もざらにいる。ドミニカ人はプライ ドが高く、自らの間違いを認めることを簡単にはしないので、現状はなかなか改善されないらしい。

授業中、教師の話を聞かずに立ち歩き、大声でおしゃべりする生徒たち。これがドミニカ共和国の学校で日々見られる光景だ。そういった生徒に、教員は、ただ 大声で声をからして怒鳴るだけ。さらには「もう授業に来なくていい」と言い放つ。実際、生徒たちを統制する方法として、「出欠簿から名前を消去してクラス から追い出すのが一番」と私に話した教員もいた。

こんな状況だから留年する生徒が多いのだが、それに関連した、さらなる「悪い習慣」がある、とホセさんは教えてくれた。なんと、単位認定や学期末試験合格 と引き換えに生徒に性的関係を強要する教員が、男性教師・女性教師関係なく多数存在するというのだ。「こういった状況で教育の質について語りあえると思う か。良い教育を受けるためには国を出るしかないんだよ」。彼は再び苦笑した。

■大学は金儲け主義

では、教師育成のための大学や教員養成校のシステムはどうなのか。私が配属されたロスイダルゴス市役所の職員たちによると、この国の大学のほとんどは金儲 けが目当てで、その傾向は年々強くなっているという。そのため、田舎であれ郊外の大学であれ、入学するのは簡単。学費さえ納入すれば卒業できる。結果とし て、読み書きが正確にできない学生ですら、教員免許を取得し教壇に立つことができる。

教員養成校の教授陣の質の低さも目に余るらしい。首都サントドミンゴの教員養成校に配属された別の国際協力機構(JICA)ボランティアは、実習生たちに向かって「もう私は退職するから何もしなくていい」と言ってしまうような、プライドも情熱もない教員たちを目の当たりにした、と嘆く。

■学ぶ姿勢のない教員

このような状況に危機感を覚えたのか、2012年に就任したダニーロ・メディーナ大統領は、教育省に対する予算を全国家予算の2%から4%に引き上げた。また、教員の質向上に向け、現職の教員に対して「教員免許更新制度」を導入。教員養成校で更新プログラムを実施している。加えて、これまで午前、午後の二部制だった小学校の全日制への変更が2014年9月より首都圏を中心に進んでいる。

しかし、大学のシステムに対しての対応策はいまだ打ち出されておらず、大学の商業化は進む一方。また、政府が教育改革を行っても適用されるのは主に首都であり、農村部では旧態依然のままだ。教員免許更新制度も、現在のところ都市部で勤務する現職教員にしか適応されない。

こうした行政の問題に加えて、社会慣習的な問題も存在する。「教員自身が学び続ける姿勢を持たなければこの国の教育は変わらないだろう。それにドミニカ人はいくら法律があっても決して守らない国民性だしね」。冷ややかな笑いを含んだ表情で配属先の同僚は語ってくれた。

「国の発展は教育にある」。赴任して1年4カ 月、この国で日々実感することだ。首都には高層ビルが建ち、人々はせわしなくスマートフォンで電話し、いかにも都会的な生活をしている。そこだけ見ると、 発展途上国とは呼ぶのがはばかれる国なのだが、現地の人々と生活をともにすると、さまざまな面で「途上国」を目の当たりにする。

教育の重要性をドミニカ人が再認識し、国が発展するのを願うと同時に、日本人ボランティアとして残りの任期で何ができるのか思い悩む日々である。