うつ病は先進国だけの問題ではない、世界では5人に1人が罹患の可能性

世界でうつ病に苦しんでいる人は3億5000万人いて、老若男女問わず5人に1人がかかる可能性がある――。これは、精神保健連盟(WFMH)が発表した報告書「うつ病:世界的危機」の中で明らかになったもの。この報告書は、うつ病が招く「負のスパイラル」について取り上げている。

うつ病は、失業や所得格差などの社会的ストレスが増大すると、それに比例して数が増えるという傾向をもつ。とりわけ不況との関係は深い。失業リスクが高まり、貧困生活者が増えると、社会不安も増大するからだ。社会的な心理ストレスに曝されることによってうつ病患者は実際に増えている。日本を例にとれば、うつ病に苦しむ人は1996年の43万人から、リーマンショックが起きた2008年には104万人(国民の1%弱)と2.4倍になった。

うつ病の症状のひとつに「自殺」がある。失業率が1%上がると65歳以下の自殺率は0.79%上昇するとのデータもある。うつ病患者と自殺者が増えると経済状況は悪化するといわれ、日本の厚生労働省の推計によれば、うつ病や自殺による経済損失額は2009年の1年間で2兆6800億円に上ったという。

不況がうつ病を呼び、自殺者を増やし、経済状況が落ち込み、これまで以上にうつ病にかかる人が増えていく。さらに、不況の影響から税収も減少。政府の財政を圧迫するため、医療・福祉サービスへの予算が削られ、その結果、うつ病患者をケアする病院や保健機関が資金不足に陥り、うつ病患者を十分にケアできなくなる。これがうつ病の負のスパイラルだ。

負のスパイラルに陥らないようにするためには、うつ病患者に対する「プライマリケア」を拡充することが欠かせない。プライマリケアとは、総合的な診療と、受診のしやすさを兼備するヘルスケアサービスのこと。より早く、より簡単に、精神科医への相談や治療にアクセスできる環境を整えることが重要だ。早期の治療は、うつ病の症状改善や治療費の削減、うつ病患者を世話する周囲の人の負担軽減につながる。

だが途上国ではプライマリケアの体制が未熟だ。病院や診療所などが未整備のためアクセスが悪い。一度治療を受けても、通院をやめてしまう現実もある。今後の課題としてWFMHは、プライマリケア体制を構築するために、精神科医や専門家の訓練・育成の充実、アクセスしやすい診療施設の拡充を挙げる。

途上国は近年、急激な経済成長を遂げており、うつ病はもはや、先進国だけの問題ではない。新興国では国民の一部が豊かになっていく一方で、経済発展から取り残された人も多くいる。経済成長の負の影響として、大きな社会的格差が生じ、これは大きな社会的ストレスになっている。

世界ではうつ病患者の25%以下しか治療を受けていない。「治療ギャップ」と呼ばれる問題で、皮肉なことに、社会的ストレスを感じやすい低所得層が治療を受けられないというのが現状。途上国では通常、効果的な治療を提供する精神科医が不足しており、たとえばエチオピアでは人口8000万人に対し、精神科医は26人しかいないという。(依岡意人)