“エシカル農業”を実践するセブの若者、栽培の半分は有機農法

0918小脇さんDSC04034[1]ライアン・セクレタリアさん

フィリピン・セブ市の山間部の村スドロン2で31.5ヘクタールの農地を経営するライアン・セクレタリアさん(24)は “エシカル(倫理的)農業”を実践している。「お金儲けに走るより、農民が生活できるようサポートすることを大切にしている。生きることが先決だから」と いう独自のポリシーをもつ。この村で生まれた彼は、セブ市街の大学院で政治学と情報技術を修了した後、故郷に戻り、農業発展を志す。

ポリシーのひとつは「有機栽培」だ。ショウガ、ナス、レタス、ミント、青唐辛子などを栽培するが、なるべく農薬は使わない。健康を考慮してのことだ。しかし有機栽培では見た目がど うしても悪くなってしまうため、農薬使用はやむを得ないという。そのため今のところ有機栽培の比率は全体の5割程度。育てた無農薬食品は安価でマーケットへ、農薬を使用した作物はスーパーなどで売られる傾向があるという。

ふたつめのポリシーは「小作人の人権」だ。この農園では50~60人 の小作人を抱えている。機械を使わない農作業は、地元民の雇用口にもなっている。農家の経営一族であるライアンさんは「マーケットで店を構えればお金はよ り稼げる。けれどもそこまで金持ちになりたいとは思わない。生き延びるための手段。農民たちに仕事と食を与えることもやりがいになっている」と語る。収穫が芳しくないときも、彼らの生活を救うことを優先的に考えるという。そのため「より効率的に栽培するために農業技術を独学で勉強しつつ、なぜそうするのか と自分に問い続けている」と哲学的な側面も見せる。

とはいえ農業で生計を立てることは一筋縄ではいかない。天候を予測した栽培計画から、市場での売り方まで、工夫も不可欠。ライアンさんの場合、普段は収穫物を直接市場へ売りに行く。たとえばショウガは、カルボンマーケットでは1キログラム当たり90ペソ(約230円)で取引されている。直売価格は80ペソ(約200円)だ。豊作のときは60ペソ(約150円)で中間業者を介す。

収穫量だけでなく、天候も価格を大きく左右する。“恵みの雨”も連日降り続ければ作物を傷つけてしまう。「需要の高い品目と雨風に強い品目のバランスを考えて対応する」と、この農園で働く農業従事歴54年のカルノットさん(66)は話す。

ライアンさんにとって農業は、人々が生きていくのに必要不可欠な産業であり、また自給率向上や輸出による外貨獲得など、発展させていくメリットは大きい。これからも、外部環境に影響を受けやすい農業で、倫理観を損なうことなく農園を営んでいく。