国際協力大綱の政府案公開、NGOは「ODAの“間接的な軍事利用”の可能性」「経済最優先のアプローチ」を懸念

国際協力NGOセンター(JANIC)、「動く→動かす」の国際協力NGOネットワーク2団体は10月31日、同月29日に外務省が公開した「開発協力大綱の政府原案」に対して緊急声明を発表した。「政府開発援助(ODA)予算を国民総所得(GNI)の0.7%に国際目標どおり増やすと掲げたこと」「子ども、女性、障害者、高齢者、難民・国内避難民、少数民族など社会的脆弱者に焦点を当てるとしたこと」などを評価する一方で、「ODAの“間接的な軍事利用”の可能性」や「貧困削減への最優先のアプローチに経済成長を定めたこと」などを問題視。文言の変更を求めた。開発協力大綱(旧ODA大綱)とは、日本の援助政策の根幹を示す文書で、目下のところ改定作業中。

■非軍事原則に“抜け道”か

NGOが問題視するのは第一に、ODAが間接的に軍事利用される可能性だ。ODAを軍事目的に使わないことについて、大綱原案は「開発協力の軍事的用途および国際紛争助長への使用を回避するとの原則を遵守する」とはっきりと明記している。だが同時に、下の記述も原案にはある。

「民生目的、災害援助など非軍事目的の開発協力に相手国の軍または軍籍を有する者が関係する場合には、その実質的意義に着目し、個別具体的に検討する」

この文言は、現行のODA大綱(大綱の名称が今回から変わる)にはなく、新たに挿入されたもの。他国の軍隊へODAを使った支援が民生目的・非軍事目的であれば容認されると理解できるため、非軍事原則の抜け道となりうるのでは、とNGOは不安を募らせる。

「実質的意義に着目し、個別具体的に検討する」という一節も「意味は定かでない。援助案件が軍事転用されないという担保は記されていない。軍隊は機密性の高い組織。提供した援助がどう運用されるかを把握することは難しい」とNGOは訴える。

■オーナーシップはどうなる?

第2の問題点は、現大綱に書かれている「途上国の自主性(オーナーシップ)を尊重し、その開発戦略を重視する」という記述が削除されたことだ。外務省は代わって下の文言を入れた。

「相手国からの要請を待つだけでなく、相手国の開発政策や開発計画、制度を十分踏まえた上で我が国から積極的に提案を行うことも含め、当該国の政府や地域機関を含む様々な主体との対話・協働を重視する」

日本のODA政策はこれまで「要請主義」の建前を採ってきた。このやり方が日本の援助から革新性・創造性を削ぐ結果になっていることはかねて指摘されており、要請主義からの脱却が必要との見方はNGOも認めている。

ただ重要なのは、開発の主体はあくまで「被援助国の政府と市民」にあること。原案は「様々な主体との対話・協働を重視する」とうたうが、「援助国と被援助国の間には発言力に圧倒的な差がある。結果的に援助国側の意向や都合のみが優先されがち」とNGOは強く懸念。「途上国の自主性(オーナーシップ)を尊重し、その開発戦略を重視する」と明記するよう外務省に求めている。

■貧困層への直接支援は不可欠

第3の問題点は、貧困撲滅のアプローチとして「経済成長」に高い優先度を置いていることだ。原案は次のように、経済成長重視の姿勢を打ち出している。

「民間部門や地方自治体の資源を取り込むとともに、民間部門主導の成長を促進することで開発途上国の経済発展を一層力強くかつ効果的に推進し、またそのことが日本経済の力強い成長にもつながるよう、官民連携、自治体連携による開発協力を推進する」

これに対してNGOは、 経済成長を優先し、格差の拡大を放置すれば社会不安につながり、紛争の原因にもなる、との見方。包摂的(インクルーシブ)で格差が少なく、持続可能で強靭 (レジリエンス)な社会を実現するためには、成長そのものを包摂的・持続可能で強靭にすること、富を公正に再分配することなどが欠かせないと主張する。

貧困をなくすためのアプローチとして、貧困層への直接的な社会開発支援、富の公正な再分配を促進するための支援にも、少なくとも経済成長と同じレベルの高い優先度を与えるべき、とNGOは断じる。

■ODAの苦情を申し立てられる制度を!

問題点の4番目は、多国間のより良い開発協力に日本がどう参画していくかという視点が十分に反映されていないことだ。国際的な議論に日本の意見を反映させることしか原案には書かれていない。NGOは「多国間の開発協力を最大限に効果的なものにするために、我が国として主体的に参画する」という文言を盛り込むよう訴える。

5番目は、国際協力の広報・情報公開・開発教育について。現行の大綱にあった「国民からの意見に耳を傾け、開発事業に関する提案の募集やボランティア活動の協力などを行う」という文言が削られたため、それを復活させるようNGOは求めている。

NGOはこのほか、アジアやアフリカなど途上国の市民社会からの要望として下記を挙げた。

・ODA案件の計画策定から評価に至るまでの意思決定プロセスに途上国の市民社会組織(CSO)が参加できる機会を保障すること

・日本のODA事業で負の影響を被った時に苦情申し立てができる制度を作ること

・途上国のCSOと連携し、基本的人権の保障、社会正義の実現、女性を含む社会的脆弱者への暴力からの保護、環境の保全、格差の是正といった課題に優先的に取り組むこと

・日本と被援助国双方の専門家チームによる客観的な評価を実施し、その結果を公開すること

・開発援助に関するパリ宣言などの重要な枠組み・規定に準拠すること

・ODA事業で使用する資器材の購入先や仕様について条件づけをすることで、通常より高い価格で購入しなければならなくなったり、現地で交換できない部品を使わなくてはならないといった問題が起きないようにすること

大綱の改定は11年ぶり。外務省は11月27日まで、「開発協力大綱案」についての意見を募集している。11月中に国内4カ所で公聴会を開き、年内の策定を目指す。