“縫製大国”バングラデシュを支える女子工員ら、増え続けるセクハラに直面

■「服を脱げ」との脅しも

バングラデシュ経済をけん引する縫製業。同国には首都ダッカやチッタゴンを中心に4000以上の縫製工場がある。縫製品(衣料品、ニットウェア)の輸出額(約125億ドル=約9900億円、2010年度)はいまや国全体の8割を占めるなど、バングラデシュは“縫製大国”として発展し始めた。これを支えるのが縫製工場で働く150万人の女子工員らだ。

女子工員の多くは貧しい農村の出身。仕事を求めて都会へ出てきた。平均年齢は19歳。若い女子工員らは国家の屋台骨を支えるだけでなく、故郷へ仕送りもしており、一族にとっても重要な稼ぎ手となっている。こうみると縫製業は、バングラデシュの農村女性に仕事を提供し、経済的にエンパワーメントさせていると映らなくもない。

ところが現実はそう単純ではない。女子工員らは劣悪な職場環境に置かれ、苦しんでいる。給料は男性の同僚の約6割に抑えられ、残業代もなし。また教育や研修を受けさせてもらえないため、昇進の機会もないという。

しかしより深刻なのは「セクハラ」だ。バングラデシュ縫製業の女子工員の実態について英国のNGO「ウォー・オン・ウォント」が2011年に発表した報告書によると、インタビューに応じた女子工員998人のうち、297人が「望まない性的な誘いを受けたことがある」と答えている。実際に体を触られたのは290人。さらに衝撃的なのは、500人近くが顔面を殴られるなど、工場の監督者から暴力を振るわれたことがあり、328人が「服を脱げ」と脅された経験をもつことだ。

■都市化がセクハラを呼ぶ

バングラデシュでは近年、セクハラが急増している。その背景にあるのが都市化といわれる。国連人口基金(UNFPA)などが03年に発表した労働者のセクハラについての報告書は、バングラデシュ女性に対するセクハラが増えているのは、女性の経済的地位の向上や人口移動の増加(農村から都市へ)などと相関関係にある、と指摘する。都市には、人間関係が濃い農村のようなコミュニティは存在せず、それがセクハラをさせやすくしている。

バングラデシュでは年率6%のペースで都市人口が増大している。いまや国民(約1億5000万人)の28%が都市在住者。都市人口は15年までに5000万人に達する見通しという。

セクハラに悩まされているのは女子工員だけではない。バングラデシュのNGO「BRAC(バングラデシュ農村向上委員会)」は、都市部では通学途中の女子生徒に対するセクハラも増えていると指摘する。セクハラに遭うのが嫌で学校を中退する生徒や、また娘を守るために早く結婚させようとする親もいるなど、事態は深刻化している。

後発開発途上国(LDC)のバングラデシュは、縫製業の伸びをてこに、ここ10年は6%前後の経済成長を維持してきた。長引く世界不況で先進国の消費者の間で「低級品志向」が強まっていること、また中国への依存リスクを分散させるトレンド「チャイナ+1」(中国と、もう1つ別の国に工場を作る)の浸透もバングラデシュにとっては追い風だ。バングラデシュは、ポストBRICSの新興国「ネクスト11」にも名を連ねている。

08年にはユニクロも進出するなど、いまや世界的に注目を集めるバングラデシュの縫製業。そうした発展の陰で、女子工員とその予備軍は、増え続けるセクハラに直面している。(今井ゆき)