「途上国」こそが世界の経済成長と社会変革の原動力! UNDPの人間開発報告書2013

ganasのlogo小

国連開発計画(UNDP)は3月14日、人間開発報告書2013「南の台頭——多様な世界における人間開発」を発表した。このなかで、「南の台頭」が21世紀の世界に抜本的な再編を引き起こしている、と指摘。途上国が経済成長と社会変革の原動力となり、数億人を貧困から引き上げ、これまで他の地域を圧倒してきた欧州・北米のプレゼンスを下げている、と分析した。要点は下の通り。

■南の台頭は「欧州・北米優位」を逆転

・中国とインドは、産業革命期の2倍の速さに相当する20年弱で1人当たりの経済生産を倍増させた。「産業革命が1億人の物語だったのに対し、こちらは数十億人の物語」(人間開発報告書2013主筆のハリド・マリク氏)

・中国、インド、ブラジルの「南の3大経済国」の総生産は2020年までに、米国、ドイツ、英国、フランス、イタリア、カナダの総生産を上回る。

・南の生活水準が向上したことで、世界では、極度の貧困下で生活する人の割合が、1990年の43%から2008年は22%へと減った。中国だけでも5億人以上が貧困から引き上げられた。1日1.25ドル未満で生活する人の割合を1990~2015年に半減させるというミレニアム開発目標(MDGs)の貧困撲滅ターゲットを達成した。

・世界貿易に占める途上国の割合は、1980年の25%から2010年は47%に倍増した。最大の要因は、南南(途上国同士の)貿易の比率が過去30年で全貿易の10%弱から25%強へと増えたこと。一方で、北北(先進国同士の)貿易は46%から30%弱に低下した。南南貿易が北北貿易を追い越すとの予測も。

・南は、相互依存と相互関係の度合いを強めている。インターネットにつながる携帯電話はすでに、アジアとラテンアメリカの大半の世帯、アフリカの多くの世帯に普及した。ソーシャルメディアの通信量をみると、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコは、米国を除くすべての国をすでに上回る。また、途上国間の移民数はすでに、南から北への移民より多い。

・世界は、「グローバルな均衡の再調整」の真っただ中にある。産業革命、植民地支配、2度の世界大戦を通して欧州と北米が他の地域を圧倒してきたが、南の台頭はこの流れを逆転させる。南の台頭は今後、さらに加速する可能性も。

・現在の国際機構は、この劇的な変化に追いついていない。世界2位の経済大国で、世界最大の外貨準備高をもつ中国は、世界銀行への出資比率が3.3%に過ぎず、フランスの4.3%を下回っている。世界最大の人口大国になる見通しのインドは、国連安全保障理事会の常任理事国に入っていない。54カ国10億人の人口を抱えるアフリカは、国際機関で十分な発言力を与えられていない。

■北の中に「南」・南の中に「北」がある

南は、北と共通する長期的課題に直面している。「人口の高齢化」「環境上の脅威」「社会的不平等」「教育水準と雇用機会のミスマッチ」「中身ある市民参加の不足」などだ。途上国が人間開発の勢いを持続するためには、こうした課題に対して、国とグローバルの両方のレベルの解決が欠かせない。

環境問題、とりわけ気候変動へは行動を起こさなければ、最貧国での人間開発の進歩を後退させることにもなりかねない。環境上の惨事を防ぐことができない場合、極度の貧困下にある人の数が2050年までに最大30億人増える可能性がある。

先行する途上国は北と同様、高齢化とともに労働力への負担が増している。だが貧しい国は、労働人口の比率が上がることで「人口ボーナス」の恩恵を受けることができる。ただそれには適正な政策行動が不可欠だ。

アラブ諸国で2011年に起きた暴動のように、経済的機会が教育向上のペースに追いつかないと、十分な対策が採られていない政治体制では市民の騒乱が生じる。緊縮政策と成長の減速に直面する多くの先進国でも、こうした社会的緊張の高まりがある。

世界の現状を報告書は「北の中に『南』があり、南の中に『北』がある」と表現する。

■将来の開発のカギを握るのは「途上国」

今後のグローバルな開発のあり方を考えたとき、南がもつ資源とノウハウの活用は重要になってくる。

たとえば途上国は現在、世界全体の外貨準備高10兆2000億ドル(約961兆円)の3分の2を、世界の政府系ファンドの資産残高4兆3000億ドル(約405兆円)の4分の3を保有する。外貨準備高は中国だけでも3兆ドル(約283兆円)以上。この膨大な金額の一部を開発に振り向ければ、世界の貧困削減と人間開発の前進に大きな効果をもたらすことができる。

南には、グローバルなガバナンスで発言力の強化が必要だ。ただそれには責任も伴う。現在のグローバル・システムは改革が遅れており、国家レベルの「責任ある国家主権」に立脚する国際ガバナンスの「連帯的多元主義」が求められる。

責任ある国家主権とは、ボーダーレスとなったいまの世界では各国の政策決定が近隣諸国、ひいては世界全体に影響を及ぼすという認識のこと。報告書は、途上国が効果的なグローバル・ガバナンスへ建設的なアプローチを提言する新しい「南委員会」の創設を求めている。

世界が相互依存をますます強めるなか、南の台頭と、南が将来世代のために開発を加速する潜在力は、すべての国と地域に恩恵をもたらすものとみなされるべきだとUNDP。「南は北を必要とし、北もますます南を必要としている」と報告書で強調した。