日本企業のアフリカビジネス、ネックは「政情不安」と「中韓企業」

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日本貿易振興機構(JETRO)は、アフリカに進出する日系企業(サンプル数168社、回答率51%)に対してアンケート形式でアフリカビジネスの現状について聞き取りした「在アフリカ進出日系企業実態調査」(2012年)の結果を公表した。調査時期は12年8~10月。同様の調査は99年、07年にも実施しており、今回が3回目。 ポイントを下にまとめた。

1)52%の企業が「業績は改善した」

過去5年間のアフリカビジネスの業績について、51.6%の企業が「改善」したと答えた。これは、「横ばい」の26.2%、「悪化」の22.2%を上回った。業種別では、業績が改善したと回答したのは製造業のほうが58.5%と多く、非製造業は48.2%だった。

ただ進出先でみると、改善したと回答した企業は、南部アフリカが72%と高かったのと対照的に、東アフリカでは29.2%(「悪化」37.5%)、北アフリカでも35.9%(同30.8%)にとどまった。その理由としてJETROは、東アフリカでは「政府開発援助(ODA)案件の獲得競争が激化している」、また北アフリカでは「長期政権が崩壊し、政情不安にある」ことを挙げた。

2)アフリカの重要度は「増す」が67

アフリカビジネスの重要度について尋ねたところ、過去5年間で重要度が「増した」と回答した企業は全体の55.3%に上った。「減った」の6.3%、「変わらない」の32.7%を引き離した。

重要度は今後「増す」と答えた企業は67.3%。とりわけモロッコに進出している企業でこの比率が高く、81.8%に達した。地域別にみると、東アフリカの72.4%に対して、西アフリカは56.3%と地域差が見られた。この理由について「本社の地域戦略に変更があった」と説明する企業もあった。

3)58%がビジネス「拡大」を検討中

アフリカビジネスの今後の展開については、58.7%が「進出先でのビジネス拡大、新規投資を予定・検討中」と回答した(複数回答可)。31.6%は「アフリカの他の国への進出を予定・検討中」とさらに意欲的。「ビジネス縮小・撤退を検討中」と答えたのはわずか1.9%だった。

事業の拡大を検討中と回答した企業が多かった進出先は、エジプト、リビア、コートジボワール、セネガル、エチオピア、タンザニア、モザンビーク、アンゴラ。また拡大を検討している分野は、「消費市場」「農業開発」「通信」「医療」「環境技術(再生可能エネルギーなど)」などが挙げられた。

4)注目の顧客ターゲットは「中間層」

消費市場の中で今後注目する顧客層は、との問いに対して(複数回答可)、断トツでトップだった回答は「中間層」(83.3%)だった。以下、富裕層(36.4%)、女性(24.2%)、25~30歳未満(24.2%)、15~25歳未満(19.7%)、30~45歳未満(18.2%)、ベビー・子ども13.6%、貧困層10.6%の順。

「女性」を顧客として注目する比率は、西アフリカでは45.5%と高かったが、南部アフリカでは13.3%と低かった。

5)競合相手は中国・韓国企業

アフリカ市場を攻略するうえで最も競合関係のある企業はどこか。回答が一番多かったのは「欧州系企業」(23.9%)。次いで「日系企業」(17.2%)だった。だが07年の調査と比べて、欧州系、日系の企業を挙げる回答は減り、代わって「中国系企業」(16.6%)と「韓国系企業」(12.9%)の台頭が目立ってきた。

07年の調査では、中国企業を競合相手に挙げた回答はたったの3.7%、韓国企業にいたっては「その他アジア系企業」(2.8%)に分類されていた。これは、中国・韓国企業のプレゼンスがここ5年でいかに急速に拡大したかを物語っている。ウォン安が韓国企業の進出を後押しした、との見方は強い。

6)政情・社会不安への懸念高まる

アフリカビジネスを進めるには多くの困難が伴う。今回のアンケート調査で、アフリカ側の問題点(複数回答可)として最も多く指摘されたのは「政治的・社会的安定性」(87.8%)だった。具体的には治安の悪さや政治リスク、汚職・わいろなどを指す。

これに続くのが、「規制・法令の整備、運用」(77.7%)、「雇用・労働の問題」(72.3%)、「インフラ環境」(60.8%)、「現地調達の困難さ」(46.6%)など。雇用・労働では、優秀な人材の確保が難しいという。

政治的・社会的安定性は、07年の調査では72.1%(全体の3番目)にとどまっていた。だがアラブの春に端を発した社会不安で、この懸念は強まっている。また、製造業に限ると、アフリカではすそ野産業が十分に発展していないことから、67.4%が、部品などの現地調達の難さも問題点としてとらえている。

7)日本の本社は理解してくれない

アフリカでビジネスをする際、日本の本社の問題点(複数回答可)は何か。回答が多かった順から列挙すると「自社のコンプライアンスと現地のビジネス慣習の不整合」(36.5%)、「アフリカ市場に適した製品の開発・投入ができていない」(33.8%)、「本社の理解の少なさ」(32.4%)、「日本と任国で異なる労務管理・労働習慣」(27%)、「日本人駐在員の人材不足」(26.4%)などだ。

人材不足については「ハードシップの高いアフリカ駐在を躊躇する社員が多い」との声も聞かれた。

8)7割以上が「日本政府の支援強化」を要望

アンケート調査では、日本企業のアフリカ進出に対する日本政府の支援についても質問した。これによると、74.3%が「強化すべき」と回答。「現状のレベルで十分」(4.8%)を大きく上回った。

要望する支援の内容(複数回答可)は、「相手国政府へ各種要望(制度構築、改善指導など)を伝達すること」が57.8%でトップ。以下、「情報提供」(46.9%)、自由貿易協定(FTA)などの「二国間協定の締結」(43.8%)、「日本政府高官によるトップセールス」(33.6%)など。

このほか、「商標・コピー問題などの解決に向けた支援」「中国と同じ土俵でビジネスができる環境づくり」「円安誘導」などを要望する声もあった。

■中国に水をあけられた日本

「世界の成長センター」としていまや注目を集めるアフリカ。国内総生産(GDP)のここ20年の推移をみても、そのトレンドは一目瞭然だ。

JETROによると、アフリカ全体の名目GDPは1990年、5000億ドル(現在のレートで約47兆円)だった。ところが2011年はその4倍の2兆ドル(約187兆円)に迫る勢いだ。

アフリカにとって最大の貿易相手国は、輸出入とも、旧宗主国が名を連ねる欧州連合(EU)が維持している。だが中国の近年の伸びは凄まじく、11年のデータでは、アフリカへの中国からの輸入はシェア11.6%(金額は約662億ドル=約6兆2000億円)、アフリカから中国への輸出は同13.1%(約760億ドル=約7兆1000億円)を占めた。00年のシェアは、輸入3.4%、輸出3.2%だった。

これに対して日本のシェアは、輸入2.4%(約134億ドル=約1兆2500億円)、輸出2.6%(約149億ドル=約1兆4000億円)と、中国の5分の1にすぎない。ちなみに00年のシェアはそれぞれ3.9%、2.6%と、中国とそう変わらなかった。

実態調査報告書の最後のページにJETROは参考データとして、日本の対アフリカ直接投資残高を掲載した。これによると、02年末の約12億ドル(約1100億円)、07年末の約39億ドル(約3600億円)から、2011年末は約80億ドル(約7500億円)と増加傾向にある。