ミャンマーに北朝鮮レストラン、目玉は「喜び組」のライブ!

平壌高麗レストランの外観はどこか役所の建物に似ている。隣にはレストランで働く店員の宿舎とみられる建物も。平壌高麗レストランはミャンマーのほか、中国、ベトナム、インドネシア、タイ、マレーシアなどにある。社会主義、軍事政権とゆかりが深い国が多いのは偶然ではない平壌高麗レストランの外観はどこか役所の建物に似ている。隣にはレストランで働く店員の宿舎とみられる建物も。平壌高麗レストランはミャンマーのほか、中国、ベトナム、インドネシア、タイ、マレーシアなどにある。社会主義、軍事政権とゆかりが深い国が多いのは偶然ではない

ミャンマー・ヤンゴンの高級住宅地の一角にひっそり佇むレストランがある。北朝鮮政府が経営する「平壌高麗レストラン」だ。東南アジアを中心に、北朝鮮と国交を結ぶ国に作られるこのレストランが今、ヤンゴン在住外国人の注目を密かに集めている。背景を調べるべく、内心緊張しながら行ってみた。

■冷麺がなんと2000円!

「アンニョンハセヨー」。ベタな挨拶で店の扉を開けてくれたのは、朝鮮の伝統衣装「チマチョゴリ」姿の2人の女性だった。素朴だが柔らかな顔立ちに同じ背丈。胸元に控えめに付いている北朝鮮国旗の名札を見なければ、昭和の日本人といった感じだ。

訪れたのは金曜の夜。どこかの会議場のような雰囲気の店内に入る。外国人はもちろん、多くのミャンマー人もテーブルにつき、賑わっている。意外にもミャンマー人の客が半数以上と多い。珍しそうに周囲を見ていると、1人のチマチョゴリ姿の女性が注文を取りに来た。

ウェイトレスのキム・ピョウンさんは朝鮮語、英語、中国語、ビルマ語の4カ国語を操る20歳(北朝鮮レストランのウェイトレスは全員が20歳)。「ビールはどうですか」「料理を器に分けましょうか」「寒くないですか」と、店に入ってから食事の間もずっと私たちのそばから離れないのが印象的だ。

肝心の料理は、平壌名物の冷麺(2万チャット=約2000円)に火鍋(3万5000チャット=約3500円)、北京ダック(2万5000チャット=約2500円)など。味は悪くない。レストランは外貨稼ぎを目的とするだけに、ミャンマーの物価から考えると強気の価格設定だが、それなりに客が入っているのは、私のような好奇心からくる外国人や裕福なミャンマー人が少なくないからだろう。

北朝鮮の「喜び組」のパフォーマンス。容姿、スタイル、歌に楽器演奏とすべて揃った彼女たちは国から送られた精鋭中の精鋭。ちなみにレストランでは男性は一切見かけなかった

北朝鮮の「喜び組」のパフォーマンス。容姿、スタイル、歌に楽器演奏とすべて揃った彼女たちは国から送られた精鋭中の精鋭。ちなみにレストランでは男性は一切見かけなかった

■日本語で「涙そうそう」

ウェイトレスが突然消えたかと思うと、照明が落ちて怪しげなネオンの明かりが灯った。始まったのは平壌高麗レストラン名物「喜び組」によるライブだ。

壇上には均整のとれた顔立ちの女性たちがチマチョゴリ姿で登場。手を振り、歌い、踊りながら客席ににこやかに微笑みかける。その様子はテレビで目にする、将軍様に仕える喜び組そのものだ。

「愛国主義」の国らしく、歌うのはやたらと祖国を懐かしむ曲が多い。ただ、それがどうでもよくなるほど、壇上の演奏と歌唱力は見応えがある。ライブはソロあり、バンドあり、即興演奏ありと多彩。女性たちが相当修練され、国から選ばれた人材であることを感じさせるものだ。

終盤にはなんと「涙そうそう」を朝鮮なまりの日本語でしっとりと歌い上げてくれた。丁寧なおじぎでライブは幕を閉じ、最初の緊張はどこやら私は大満足で拍手を送った。

聞くところによると、喜び組によるライブ、サービス、料理は世界中の平壌高麗レストランで共通だという。やや大げさな演出やサービスは国を大きく見せ、友好感情を醸成しようとする北朝鮮政府の対外的な意図もあるに違いない。

拉致問題、軍事独裁、核開発‥‥。何かとネガティブなイメージがつきまとう北朝鮮。だがそれは国のほんの一部でしかない。脚色はされているものの、平壌高麗レストランは北朝鮮の文化を疑似体験できる場所としてオススメだ。ヤンゴンを訪れたら、高麗レストランで行き、北朝鮮ホスピタリティーを体験してみてはどうだろう。