消費者の力で児童労働は撲滅できる! ノーベル平和賞受賞者カイラシュ氏が人生を懸ける「3つの運動」とは

0521土屋くん、IMG_7356「3D(Dream、Discover、Do)を忘れないでほしい」と語りかけるインド人活動家カイラシュ・サティヤルティ氏(都内で)。2014年にマララ・ユサフザイ氏とともにノーベル平和賞を受賞した

ノーベル平和賞を2014年に受賞したインド人活動家カイラシュ・サティヤルティ氏が5月14日、都内で開かれたシンポジウム「私から始まる児童労働のない未来」(共催:NPO法人ACE、児童労働ネットワーク、NGO-労働組合国際共同フォーラム児童労働グループ)に登壇した。30年以上にわって児童労働の撲滅に取り組んできた同氏は「消費者一人ひとりの力で児童労働は撲滅できる」と強調。自身のノーベル賞受賞につながった「3つの運動」を紹介した。

カイラシュ氏が最初に手がけた運動は、労働を余儀なくされる子どもを救出するNGOを1981年にインド国内で設立したこと。NGOの名称は「BBA(子ども時代を救え運動)」。現在までに8万5000人以上の児童労働の被害者(子ども)を救い出してきた。

カイラシュ氏によれば、BAA設立のきっかけは、ひとりの少女の「救出依頼」だった。児童労働の専門誌を当時販売していたカイラシュ氏の元にある日突然、「サボという娘を助けてくれ」とひとりの男性が訪ねてきた。サボちゃんが匿われている人身売買宿にカイラシュ氏は救出に向かうが、最初は失敗。しかしその後、弁護士の友人の協力を得て、裁判所に訴えを起こし、サボちゃんを取り戻せたという。

そのとき同時に、同じ宿にいた36人の子どもを助け出した。この救出劇がきっかけとなり、多くの人がカイラシュ氏に、児童労働の被害者の救出を頼むようになる。これがBBAの設立につながった。

BBAの活動のすごさは、救出だけでなく、助け出した子どものケアにも重点を置いていることだ。カイラシュ氏は「サボちゃんや36人のこどもを救い出した後、彼らの食べ物や寝る場所を確保しなければいけない」と考え、デリーに3つのシェルター施設を作った。名称はそれぞれ、バラアシュラム(サンスクリット語で「開かれた精神的な修行の場」の意)、ボーイズセンター、ガールズセンター。

児童労働の被害者の救出が事後策とすれば、予防策も打っている。カイラシュ氏の2つめの運動は、児童労働のないカーペット製品を認定する団体「グッドウィーブ」を立ち上げたことだ。「この活動のおかげで、南アジアのカーペット業界で働いていた子どもの数が、20年前の約100万人から5年前には約20万人へと5分の1に減った。『消費者には、児童労働を食い止めるパワーがある』ことを証明できた」と力を込める。

カイラシュ氏は以前、ドイツのテレビ番組に電話出演した際、高齢の女性から次の質問を受けた。「私は児童労働の問題を知って、買ったばかりのインド産のじゅうたんを捨てました。子どもたちが作ったものではないカーペットを、いつか私は買うことができるでしょうか」。この問いかけが、グッドウィーブ設立へとカイラシュ氏を突き動かした。

カイラシュ氏の運動はこれだけではない。1998年に「児童労働に反対するグローバルマーチ」を企画、成功させた。これが3つめの運動だ。「参加者で協力して、地球2週分の距離に当たる、フィリピン・マニラからスイスのジュネーブまでの約8万キロメートル(参加者が歩いた距離の合計)を行進した」。全世界に向けて「児童労働はノー」と強く訴えたグローバルマーチによる啓発が奏功し、国際労働機関(ILO)は翌年、「最悪の形態の児童労働条約」を定めた。

グローバルマーチの構想は、前年の1997年から練られていた。その際に立ち上がったのが、いまはインドのコットン生産地とガーナのカカオ生産地で児童労働の撲滅に取り組む日本のACEだ。日本では1998年5月にグローバルマーチを実現させた。

「1億6800万の働く子ども、5900万の未就学児童を救い、世界中のすべての子どもが“子どもらしくある自由を取り戻す”という夢をみんなと共有したい。この夢を達成するには、法律の制定やNGOの活動だけでは不十分。一人ひとりが消費者としてのパワーを児童労働の撲滅へ向ける必要がある」。カイラシュ氏はこう力説する。