カンボジアの地雷除去活動とUberの意外な共通点、マーケティングの視点から考察してみた

0308平尾さんP1カンボジアでは1970年から1997年にかけて約700万発の地雷が仕掛けられた。これは1986年のカンボジアの人口 約700万人に匹敵する数

あまりにも多くの地雷が埋設され、地雷密集度が世界で最も高いといわれるカンボジア。タイ国境沿いの地雷をあと8年でなくすべく活動している地雷除去活動家のアキ・ラー氏をインタビューした。彼の話から明らかになったポイントをマーケティングの視点から分析すると、最近話題のUber(タクシーなどを配車してくれるアプリ)のビジネスモデルと意外な類似点が見つかった。それは、シンプルなアプローチを活用することが、ビジネス課題だけでなく社会的な課題にも有効だということ。シンプルなアプローチは、日本が直面する多くの問題の解消にも使えそうだ。

■Uberに学ぶシンプルなアプローチの重要性

マーケティングのアプローチの一つに「Job To Be Done(JTBD)」というやり方がある。これを、最近話題のUberのビジネスモデルの事例で説明してみよう。

少しイライラしながら街中で手を高く挙げている人を見かけたとしたら、その瞬間にどんなJTBDが求められていると考えられるだろうか。手を挙げている人が実現したいことを、簡単な言葉でまとめると「早く、タクシーを見つけて、乗ること」といえるかもしれない。しかし、その定義では大きなマーケットが生まれる可能性を見逃してしまうことになる。なぜなら、多くの人が求めているのはタクシーを捕まえることではなくて、目的地に移動することだから。

その場合のJTBDは「早く、目的地に、移動すること」だ。こう考えると、タクシー市場を大きく超える規模の人々が必要とするマーケットが見えてくる。Uberが着目したのは、その大きな市場だった。

Uberは、「人々が達成したい成果」をシンプルに定義し、その実現にフォーカスすることで、「移動したい人」を、「移動させることができる人」にマッチングするサービスインフラを構築する。そして、そのインフラはマーケットを拡大しながら、世界に進出する推進力を得ることに成功した。

シェムリアップ在住の地雷除去活動家で、元ポル・ポト兵のアキ・ラー氏。インタビューに応じた場所は、彼が活動と生活の拠点とする自宅のキッチンだった

シェムリアップ在住の地雷除去活動家で、元ポル・ポト兵のアキ・ラー氏。インタビューに応じた場所は、彼が活動と生活の拠点とする自宅のキッチンだった

■「平和にすること」か、「地雷をなくすこと」か

内戦終結後のカンボジアには、たくさんの課題があったに違いない。そうした課題を「早く、平和に、すること」と定義すると、おそらく本当に必要なことを見逃してしまい、たくさんの議論を生み出す結果につながってしまう。アキ・ラー氏は、当時のカンボジアが直面する課題を「早く、地雷をなくすこと」と定め、地雷撤去の活動を強力に進めていく推進力を作り出すことに成功する。

行動を生み出す推進力は、シンプルであるほど、人を巻き込み、継続していく原動力になる。実際にアキ・ラー氏はシンプルなアプローチで、活動を継続する力を生み出し、カンボジアから地雷をなくすという途方もない活動を続けている。

アキ・ラー氏のアプローチは、「達成したい成果」と「必要な行動」がダイレクトにつながったことで、結果を生み出す力強さに変わっていった。

■学校に通ったことがない

アキ・ラー氏は学校に通ったことがないという。「学校に行ってないから、誰も社会について教えてくれなかった。何が良いことか悪いことかを判断することができないまま、ポル・ポト派の戦闘員としてカンボジアの内戦に参加した。自然に自らの手で地雷も敷設するようになった」

国際連合カンボジア暫定統治機構(UNTAC)が1993年に武装解除を行ったあとで、アキ・ラー氏は自分がしてきたことや、地雷の問題について考えるようになったと言う。アキ・ラー氏は大きな予算や組織の支援がないなかで、地雷除去の活動を開始。およそ17年をかけて約5万発の地雷を除去する。その功績が認められ、2010年、世界中の活動家の中から、地域に最もインパクトある成果を出す人にCNNが与える「CNN HERO」の10人の中のひとりに選ばれた。

■悪いことをしたから良いことをする

私は、アキ・ラー氏を活動に駆り立てる動機やベースとなる考えに興味を持ち、さらに質問を投げかけてみた。すると、こんな答えが返ってきた。

「私は何もわからないまま、地雷を埋めるという悪いことをしてしまった。だから周りの社会に少しでも役立つことをしたいと考え、地雷除去活動を始めた。活動を継続している理由は、まだカンボジアから地雷がなくならないから。私は、自分がしていることを特別なことだとは考えていない。自分が過去にした悪いことを、今やっている良いことで交換したいと思っているだけ」

シンプルなアプローチで、考えを行動につなげ、未来を変えていく。こうしたやり方は、いろいろな組織や人間関係、歴史的な背景で、がんじがらめになっている日本の多くの課題にも生かせるのではないだろうか。

今までのやり方で変化を起こせないのなら、ここはひとつ思いっきりシンプルに考えることから始めてみよう。そうすれば、未来を変える大きな力を生み出すきっかけになる。アキ・ラー氏の活動から学んだシンプルなアプローチを、日本でも生かすことがきっとできるはずだ。

CNN HEROのネームタグ

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