2016-08-04

リオ五輪にサウジ女性4人出場も「差別は根強い」、ヒューマン・ライツ・ウォッチ

(ニューヨーク)— サウジアラビアの女性が、健康のため、競争のため、そしてプロとしてスポーツを行うにあたり、これまである程度の前進が見られた、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。リオデジャネイロ五輪開催にあたり、スポーツ当局の新たな女性部門も含むサウジアラビア政府は、学校、企業、競技連盟、団体競技にまだ残っている壁を取り除く必要がある。

今回4人の女性がサウジアラビア代表としてリオ五輪に出場する。2012年のロンドン五輪の2人出場から、わずかだが改善したといえる。しかし、サウジアラビア国内では公立学校を含む様々な場面で、女性や少女がスポーツに参加することが許されていない。この背景には、女性の日常を多岐にわたって制約する差別がある。男性後見人の許可なしには、女性は海外旅行や結婚、刑務所からの保釈も許されない。仕事や医療でさえ後見人の同意が必要な場合もあり、車の運転も認められていない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのグローバル・イニシアチブ部長ミンキー・ワーデンは、「サウジアラビアの女性はスポーツの世界で驚異的な進歩を遂げている。文字通り最高峰に挑み、長い河をいくつも泳いできた」と述べる。「困難な法的・文化的・宗教的ハードルにもかかわらず、彼女たちはその決意、才能、努力、そして魂を見せている。リオ五輪が開幕されるなか、サウジアラビアは女性と少女のスポーツ参加を阻む根深い差別に取り組み、この状況を変える必要がある。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチによる2012年の報告書「魔の一歩(Steps of the Devil)」では、サウジアラビアの女性と少女がスポーツおよび体育への参加を実質的に禁じられていた実態が、健康などに及ぼす悪影響について詳しく調査・検証した。

サウジアラビア政府は女性と少女に対し、男性や少年と同じようにエクササイズやスポーツをする機会を拒否して、男女差別をしている。2016年7月の時点では、国内大会や国が主催するスポーツリーグへの女性参加が認められていない。一方、前向きな動きとしては8月1日に、スポーツ総合庁が女性部門の新設を発表し、その責任者としてリーマ・ビン・バンダル・アル・サウード(Reema Bint Bandar Al Saud)王女を女性スポーツ振興担当に任命した。

サウジアラビアの女性は、国立競技施設へのアクセスも認められていない。国内大会や国主催のスポーツリーグへの参加はもちろんのこと、男子代表チームの試合を観戦することさえ禁じられている。国内にはスポーツ総合庁が規制・支援する公認スポーツクラブが150以上存在するが、女性がそれらにアクセスすることは容易ではない。同庁が組織する国内競技大会の参加も男性のみだ。なお、サウジアラビア五輪委員会には依然として女性部門が存在しない。

前出のワーデン部長は、「スポーツ総合庁の女性部門設置は歓迎できる動きだ。同部門が女性のスポーツや、ほかの運動へのアクセスに関する改革を率いなければならない」と述べる。

同国は徐々にではあるが、一部前向きな変化を成し遂げてきた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは公立学校における女子の体育教育についての情報を、サウジアラビア政府に対して複数の書簡で求めたが、明確な情報を得ることはできなかった。しかし、近時の報道によると、一部の公立学校が女子の体育教育を実施している。私立学校では長らく体育教育を行うことが許されていたが、2013年5月にはサウジアラビア当局がこうしたプログラムの継続を許可した。ただし、女子生徒が「適切な衣服」を着用し、かつ女性指導員の監督下にある場合という条件つきだ。

女性たちはまた、全国に女性専用のフィットネススタジオを開設している。しかし、主要な問題である、国家的、宗教的、官僚的、文化的なバリアは根強く、女性が健康上の理由やレジャーのため、または競技として スポーツをするには難しい状況だ。インストラクターになったり競技選手になるための訓練を受けるには、国を離れるしか方法がないと話すサウジアラビア女性もいる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、選手や活動家、医師、トレーナー、起業家など、様々な人生を歩むサウジアラビア女性に聞き取り調査を実施。彼女たちはスポーツをする権利を主張したり、女性専用フィットネスセンターを開くために、どのような方策を取っているか詳しく話してくれた。女性の健康のために活動しているある女性活動家は、より多くの女性専用ジムを開設するため、自身の商工会議所での地位をロビー活動に利用しているという。ビジネスとして女性専用の私設競技チームを運営したり、女性専用ジムの合法化を政府が拒否していることに屈しないで未承認でもジムを開設したり、国際競技大会に出場するために国内外でトレーニングする女性たちもいる。

スポーツ総合庁、教育および保健省、サウジアラビア五輪委員会が公立学校、ジムのライセンス、体育教師の養成に関して抜本的改革を行えば、数百万人の女性や少女の生活と幸福に継続的な好影響をもたらし、スポーツをする権利の平等を彼女たちに気づかせるきっかけにもなろう。

サウジアラビアが今年発表した「ビジョン2030(Vision 2030)」は、同国の経済と発展に関する新たな政府のロードマップだが、女性や少女のスポーツへのアクセスを改善する可能性がある。「スポーツを定期的にする機会はしばしば制限されてきた。これは変わることになる」とロードマップに明記されているからだ。サウジアラビア高官は、女性と少女にスポーツを許し、かつ奨励し、この約束を果たさなければならない。

オリンピック憲章は、「すべての個人はいかなる種類の差別も受けることなく、オリンピック精神に基づき、スポーツをする機会を与えられなければならない」と定めている。国際オリンピック委員会(IOC)は2014年12月、全会一致で「オリンピック・アジェンダ2020」と呼ばれる一連の改革を採用。ジェンダー平等をオリンピック・ムーブメントの中心に据えた。主な改革としては、IOC自身のアジェンダとして初めて、女性や少女を差別する国を開催都市の候補から、除外した。

2015年1月にはIOCのトーマス・バッハ会長が、サウジアラビアと隣国バーレーンが五輪を共催し、男性選手はサウジアラビアで、女性選手はバーレーンでそれぞれ競技に参加するというサウジアラビアの提案を却下。サウジアラビアは差別禁止規定に従うまで招致活動への参加が認められないであろうと述べた。バッハ会長は「『非差別』へのコミットメントは、今後のオリンピック招致を望むすべての国にとって絶対条件となる。サウジアラビアのような国は、女性選手が自由に参加できるよう、真剣に取り組まなければならない」と述べている。

差別はオリンピック・ムーブメントの理念と相容れない、とするオリンピック憲章およびそうした差別を根絶するというIOCの使命にそって、スポーツ並び生活全般において、女性や少女に対する差別に終止符を打つ改革を早めるよう、IOCはサウジアラビアに対して求めるべきだ。IOCは女子公立学校における体育の義務教育化や、サウジアラビア五輪委員会における女性部門の設置、女性の競技連盟の創設、ユースオリンピックなどの国際競技大会への女性参加に対するすべての障害の排除といった改革を、サウジアラビア高官と協力して推進する必要がある。

サウジアラビア政府はこれまでにも、女性や少女に対する差別の根絶向け速やかな措置を講じると公約してきた。これはサウジアラビアの国際法上の義務でもある。サウジアラビア政府がこうしたゴールを一刻も早く達成できるよう、IOCも同国を奨励・支援するという役割を担う必要がある。さもなくば、サウジアラビアでは次の世代の少女たちも、スポーツをし、それに伴う健康上の利点を享受するための重要な機会を持てないまま成長することになってしまう。

サウジアラビア政府への提言:

・サウジアラビア諮問評議会による2014年4月の勧告に従い、義務教育期間中の少女のためにすべての公立学校で体育の義務教育化を導入し、それに関する明確なタイムラインも設定する

・学校で体育を教えられるよう女性が研修を受けることを保障する

・サウジアラビア五輪委員会に女性部門を設置する

・女性の競技連盟を設立し、国内外での女性の競技参加を許可する

・国際競技大会への参加を望む女性に対し、男性同様の助成・訓練・支援を提供し、こうした大会への参加を許可する

・男性代表チームの試合観戦も含め、女性がスタジアムでのスポーツイベントに参加することを許可する

ワーデン部長は、「小学校の体育館での運動から始まり、オリンピックで金メダルをとるまで、サウジアラビアの女性と少女は夢を叶えられるようになるべきだ」と指摘する。「サウジアラビア当局はスポーツにおけるジェンダー差別を解消する必要がある。それは国際人権法上の義務だからという理由だけではない。同国の次世代の少女たちの健康と幸せという、その後長きにわたる恩恵のためにである。」

プレスリリース:https://www.hrw.org/ja/news/2016/08/04/292936