2016-12-15

ILOが「世界賃金報告書」、アジア太平洋4%増・中南米・カリブ1.3%減

このたび発表された隔年刊行のILO定期刊行物『Global wage report(世界賃金報告)』2016/17年版 は、2012年から減速傾向を示している世界の賃金上昇率が2015年に1.7%(2012年2.5%)と、この4年間で最低の水準になったことを明らかにしています。賃金の伸びが最も大きかった中国を除くと、世界の賃金上昇率は0.9%に低下します。

2008~09年の金融危機後の多くの期間、世界の賃金は途上国の比較的強い伸びに推進されて伸びてきましたが、最近はこの趨勢の鈍化または反転が見られます。主要20カ国(G20)中の新興経済諸国及び途上国の実質賃金上昇率は2012年に6.6%を示したものの、2015年には2.5%に低下しています。対照的に、2012年に0.2%であったG20先進諸国の賃金上昇率は2015年にこの10年で最も高い1.7%を記録しています。とりわけ、米国は2.2%、欧州連合(EU)諸国は1.9%、北・南・西欧諸国は1.5%の伸びを示しています。

デボラ・グリーンフィールドILO政策担当副事務局長は、「この趨勢の重要な部分を説明するのは米国及びドイツの高い賃金上昇」であることを挙げた上で、経済、社会、政治の不確実性が高まる先進国で、このような元気づけられる展開が今後も維持されるかどうかは「まだ不明」としています。そして、需要の減退が価格の低下、つまりデフレ状態を引き起こすような経済環境では、賃金の低下はさらなるデフレ圧力をかけることになるため、「大きな懸念の種になり得る」と指摘しています。

報告書は途上地域間の大きなばらつきも明らかにしています。例えば、2015年にアジア太平洋の賃金上昇率は4.0%と比較的堅調で、中央・西アジアは低下しつつも3.4%を保ち、アラブ諸国は速報値で推定2.1%、アフリカでは推定2.0%となっているものの、中南米・カリブの実質賃金は1.3%、そして東欧諸国では5.2%の下落が見られます。

国内の賃金分布に関しては、報告書は、ほとんどの国で賃金分布の大半で賃金は次第に上昇しているものの、上位10%、そして1%では上昇がさらに急激になることを明らかにしています。例えば、欧州では賃金分布の上位10%が得る賃金が賃金総額に占める割合は下位50%(29.1%)とほぼ等しい、平均25.5%になっています。南アフリカ(49.2%)やインド(42.7%)、ブラジル(35.0%)など、一部新興経済諸国では上位10%の占める割合はさらに高くなっています。男女間の賃金不平等はさらに激しく、例えば、欧州における時間当たり賃金に見る男女間格差は全体で約20%であるのに対し、賃金分布の上位1%では約45%に達しており、上位1%に含まれる最高経営責任者(CEO)間の男女間賃金格差は50%を上回っています。

「職場内における賃金不平等」を副題に掲げる本書は、企業内における賃金分布を初めて取り上げ、「企業間の賃金不平等」と「企業内の賃金不平等」が全体的な賃金の不平等にどの程度寄与しているかを分析しています。企業間不平等は途上国の方が先進国より大きくなる傾向があり、先進国では賃金分布上位10%の企業の平均賃金は下位10%の2~5倍になる傾向があるのに対し、この差が例えば、ベトナムでは8倍、南アフリカでは12倍に達しています。

報告書の著者の一人であるロサリア・バスケス=アルバレスILO経済専門官は、欧州22カ国の平均として、賃金不平等全体の42%が企業内不平等によるものと結論づけています。

報告書はさらに企業内平均賃金に対する個人の賃金比率を検討し、欧州では、被用者の約8割が自社の平均賃金を下回る賃金を受け取っており、平均賃金分布上位1%の企業では、企業内賃金分布上位1%の労働者の時間当たり平均賃金が844ユーロ(約10万4,000円)であるのに対し、下位1%の平均賃金は7.1ユーロ(約875円)であることを示しています。グリーンフィールド副事務局長は、企業内賃金不平等の度合い、そして全体的な賃金不平等に対するその寄与率が極めて大きいことは、「全体的な不平等の縮小における企業レベルの賃金方針の重要性を指し示すもの」と説いています。

報告書は、過度の賃金不平等を縮小するために各国が自国の状況に合わせて用い得る政策として、最低賃金や団体交渉の重要な役割に加え、役員報酬の規制または自己規制、持続可能な企業の生産性促進、男女間など労働者群間の賃金不平等対策などを挙げています。

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以上はジュネーブ発英文記者発表 の抄訳です。

プレスリリース:http://www.ilo.org/tokyo/information/pr/WCMS_538157/lang–ja/index.htm