アフリカ産紅茶は意外と身近! 世界輸出1位はケニア

お茶を収穫する農家の人々(日本ケニア交友会提供)お茶を収穫する農家の人々(日本ケニア交友会提供)

「アフリカ産の紅茶」と聞いても、ピンとくる人は少ないかもしれない。アッサムやダージリンのインド産や、セイロンのスリランカ産などアジア産紅茶が広く市場に出回っている印象がある。ところが近年、世界でアフリカ産の取引量が伸びている。日本人も知らないうちに消費しているかもしれない、台頭するアフリカの紅茶セクターをのぞいてみよう。

ウガンダ8位・マラウイ9位・タンザニア10位

国際茶委員会の2011年のデータによると、紅茶・緑茶・烏龍茶を含んだ茶の輸出量が世界で最も多いのは東アフリカのケニアだ。中国、スリランカ、インドと続く。さらにウガンダ(8位)、マラウイ(9位)、タンザニア(10位)、ルワンダ(11位)、ジンバブエ(12位)、ブルンジ(13位)と、東アフリカをはじめとするアフリカ諸国が輸出国として名を連ねる。

ケニア紅茶は、渋みが少なくすっきりとしていて飲みやすい。ストレートでもミルクティーでも楽しめる味だ。一方でマラウイ産は、渋みがありしっかりとした味わいだ。

輸入国から見ると、ロシアに次ぐ世界第2位の輸入国英国は、その6割をアフリカから輸入している。日本は、紅茶輸入量の9%をアフリカ産が占め、その大半がケニア産だ。

東アフリカ産の紅茶は、異なる産地の茶葉を混ぜたブレンドティーとして使われることが多いため、「ケニアティー」や「ブルンジティー」というブランド名になることは少なく、産地ごとに味わう機会はあまりない。しかしティーバッグやアイスティーの原料として、豊かな紅茶の風味に貢献している「縁の下の力持ち」的な存在といえる。

輸出先の多様化進む

さらにデータを子細にみると、インド産と中国産の茶の約8割が国内で消費されるのに対し、アフリカ産の茶は生産分の5割以上が国外へ輸出されている。エネルギー資源に乏しいケニアでは、紅茶が最も重要な外貨獲得品目となっている。アフリカ第2の輸出大国、ウガンダでも、生産量の85%が輸出にあてられる。

東アフリカ産紅茶のもうひとつの特徴は、輸出先が少数の国に限られている点だ。エジプトやパキスタン、アフガニスタン、スーダンなど、政情の不安定な国が目立つ。例えば、アフリカ・カリブ海・太平洋諸国と欧州連合が共同で運営する国際機関農業・農村技術協力センター(CTA)の報告書によると、2011年2月には、政情不安を理由にエジプトのバイヤーが3週間商業活動を休止したため、ケニアの紅茶輸出額に影響が生じたという。

また一国の経済動向の影響を受けやすく、ケニアの輸出先第3位の英国では、景気の影響で消費者がより安い紅茶を求める傾向にあり、08年から12年の間にはケニアからの輸入量が14%も減少した。こうした事情から、ケニアをはじめとする東アフリカの紅茶生産国は紅茶の輸出先を一層多角化させている。

CTAによると、近年ケニアではロシア、アラブ首長国連邦(UAE)、イエメン、カザフスタンなどへの紅茶輸出が伸びている。またケニアでは、他のアフリカ諸国(ナイジェリア、ニジェール、ガーナ、マリなど)を潜在的市場としてとらえ、積極的に市場調査を実施している。

また輸出だけでなく、国内需要の拡大も、東アフリカの紅茶生産国にとって課題だ。ケニアは積極的に販売促進キャンペーンを実施したり、政府に紅茶産業への関税を下げるようにロビー活動したりしている。ケニアの南に位置するタンザニアでも、タンザニア紅茶委員会が販売促進キャンペーンを実施し、2010年には国内消費が26.2%伸びた。

中国、ケニアから紅茶を輸入!?

市場を多角化する流れの中で、東アフリカ諸国は中国にも熱い視線を注いでいる。中国の都市部では近代化の影響で、伝統的な緑茶に代わって紅茶の需要が増えているという。

人口の多い中国で紅茶の需要が増えれば、紅茶生産国にとっては大きな市場がひとつ増えることになる。ケニア紅茶委員会のシシリー・カリウキ長官も「ケニアのような紅茶生産国にチャンスをもたらしている」と話す。実際2011年には、中国への売り上げを前年と比べ40%増加させている。中国の隣国で世界第2位の茶生産国であるインドとの競争も激しくなる可能性がある。

いかに付加価値を与えるか

東アフリカ諸国で生産された茶葉は、発酵や乾燥などの工程を経たのち、それ以上付加価値を与えられないまま輸出される場合が多い。例えば、輸出されるケニア紅茶のうち付加価値の与えられたものは12%にとどまる。

ブレンドやパッケージ詰めなど価値を加え、他の商品との差別化を図る作業は、主に欧州を中心とする先進国でおこなわれる。その結果、東アフリカ茶貿易公社(EATTA)によると、ケニア・モンバサの紅茶オークションで1キログラムあたり3ドル(約375円)で売られた紅茶が、欧州のスーパーマーケットでその5倍か6倍の値段で売られているという。

紅茶の輸出で得られる利益を増やしたい東アフリカ諸国は、付加価値を与える作業を自国で実施できないかと模索している。「ユニリーバのように、ケニア産紅茶を購入し、パッケージ化し、リプトンなどの有名なブランド名で世界中に販売する企業と、肩を並べて勝負するのは難しい。自国で価値を与えた商品は、開拓中の新市場(例えば中国)に売り出すのが現実的だろう」とCTAは分析する。

日本への輸出を促進する動きも出ている。日本貿易振興機構(JETRO)は2012年11月、国内唯一の紅茶関連業者団体「日本紅茶協会」、同協会が認定したティーインストラクターで組織される「日本ティーインストラクター会」、ケニア、ルワンダ、マラウイ大使館と共同で、東京都内でセミナーを開いた。ベンソン・オグツ在日ケニア大使らが生産国の紹介をしたほか、アジア・アフリカ産紅茶の輸入販売などをする会社セレクティーの聞谷正人代表取締役がアフリカ産紅茶の特徴について講演した。

■日本人のティータイムもアフリカンになるか

また企業ではなく個人事業などでアフリカ産紅茶を日本の消費者へ届ける団体もある。ケニアのナイロビに本部を置く「日本ケニア交友会」(個人事業)は、ケニア産紅茶をモンバサ港から神戸港へ輸送する。

市場拡大を目指す東アフリカ諸国の動きに加えて、日本の政府レベルや個人レベルでの動きを見ると、日本の消費者がアフリカ産紅茶の存在を認識する日も、そう遠くないかもしれない。