
良い親・良い働き手・良い市民
ロイックが目指すのは、ストリートチルドレンが生まれる負の連鎖を断ち切ることだ。
そのために力を入れるのが、子どもたちひとりひとりの経済的な自立。ビラージ・ピロットはストリートチルドレンを保護するだけでなく、職業訓練を提供するほか、就職も斡旋する。経済的に自立させ、ストリートチルドレンが生まれる元凶となる貧困を抑える。
ビラージ・ピロットはまた、子どもたちの「人間教育」にも力を入れる。ロイックはこう力説する。
「受け入れセンターに来る子どもたちは親に捨てられたり、ダーラ(コーラン学校)で体罰を受けて、そこから逃げてきた過去をもつ。暴力的だったり、心を閉ざしてしまっている。彼らが再び子どもらしくなるためには長い時間をかけて向き合う必要がある」
この言葉通りビラージ・ピロットのスタッフは子どもたちひとりひとりと向き合う。移動聞き取りチームのリーダーは、ストリートチルドレンの話を熱心に聞いていたし、ラグビーコーチはラグビーをていねいに教えていた。受け入れセンターで働く看護師は「医療ケア以上に心のケアに時間を割く」と話していた。
「大切なのは親切を与えてやることなんだ。親切を受けた子どもは優しさを学ぶ。そしてその親切を誰かに返す。この繰り返しが人間を育てる」(ロイック)
30人以上が就職
ロイックの活動はビラージ・ピロットだけにとどまらない。ダーラと協力して教育改革にも着手する。
95%以上がイスラム教徒のセネガルでは子どもをダーラに通わせる親は少なくない。だがダーラは食費などを賄う目的で子どもたちに物乞いさせるのが一般的だ。ひどいと物乞いを一日中させたり、ノルマの金額を集められなかったら体罰を加えるという。
ロイックは、ダカールにある5カ所のダーラと「物乞いをさせない」「識字教育をする」といった取り決めを交わした。また13歳以上の子どもにはコーランの勉強に加えて、週に数回、ダーラの外に出て職業訓練を受けられるようにした。
これにより2024年は30人以上の子どもがダーラを卒業した後、仕立屋や大工として職を得たという。
ひょんなことからセネガルに来て、ストリートチルドレンの社会復帰に全精力を注いで30年以上が経った。その間にビラージ・ピロットは大きくなり、今ではセネガルを代表するNGOとなった。この活動をいつまで続けるのか、と私は最後に尋ねた。
ロイックは笑顔でこう言った。
「本当はビラージ・ピロットのようなNGOがなくなるのがいい。だが道端で寝ている子どもはまだまだたくさんいる。その子どもたちがゼロになるまでビラージ・ピロットは続けるつもりさ」(敬称略、終わり)

ビラージ・ピロットのオフィス近くにある海岸。白波が立つ浜辺は絶好のサーフスポットだ