
タイ北部のチェンマイに、恐ろしく前向きなミャンマー人女性がいる。ヌウェイさん、26歳。チェンマイに拠点を置くミャンマーの亡命メディアの記者を6月末に辞めたばかりで、いまは家事手伝いの仕事で糊口をしのぐ。そのうえ、ミャンマーの軍事クーデターの直後に逮捕状が出て逃亡生活も送った。「だけど人生でいまが一番幸せ」と語る。
異国で“三刀流”に挑戦
ヌウェイさんの1日は朝6時半の起床に始まる。8時から昼の12時半までチェンマイ在住の中国人の家に行き、家事手伝いの仕事をする。ヌウェイさんの母は中国系ミャンマー人ということもあって、ヌウェイさんは中国語を少し理解できるという。
家事手伝いの仕事で手にするのは1カ月6000バーツ(約2万7300円)だ。休みは1カ月に2日のみ。「仕事の内容にまったく興味はないけれど、最低の生活さえまかなうことができれば」とヌウェイさんは割り切る。
午後は「やりたい仕事」の時間。フリーランスのジャーナリストとして、ミャンマー国内で暮らす市民や民主派の軍事組織「国民防衛隊(PDF)」の兵士らをスマートフォンで取材し、記事を書く。まだ数本しか掲載されていないが、さまざまな亡命メディアで発信していきたいと未来を見据える。
ちなみに亡命メディアの原稿料は短いニュースで1本250バーツ(約1100円)、長いもので500~1000バーツ(2200~4500円)だ。
これ以外に、ミャンマーのニュースや本、詩などを読み、それを録音する仕事も週に3日程度入る見込みだ。まだ始まったばかりで、詳細はわからない。
加えて、ジャーナリストとしてステップアップするため、「オープン・ソース・インテリジェンス(OSINT)テクノロジー」や英語などを学ぶ時間も確保するつもりと意気込む。
OSINTとはいま世界的に注目されている技術。一言でいうなら、インターネット、ソーシャルメディア、公共データベースなどに載る情報を収集・分析し、活用するもの。具体的にはSNSの投稿が本物かどうか、情報源が信頼できる人物かどうかなどがわかるほか、記事を書く際も内容を裏付けるデータやコメントを集められるという。
ヌウェイさんは先輩のジャーナリストから「どこかのNGOが無料で2カ月のオンラインコースを開講している」と教えてもらった。申し込んだが、選考があり、結果はまだわからない。「先輩からは『すごく良かった』と聞いた。ジャーナリストとして一皮むけたい」とヌウェイさんは期待する。
生活のための仕事、キャリアとしての仕事、スキルアップするための学び――“三刀流”ともいえるこのルーティーンは8月1日に始まったばかり。「まだどうなるかわからない。でもいまが一番楽しい」とヌウェイさんは夢を膨らます。