2020-03-10

中東・北アフリカの2019年人権状況、「新たな抗議のうねり」と「容赦ない弾圧」

・アムネスティは、中東・北アフリカ地域19カ国の2019年年次報告書を発表した。
・西はアルジェリアから東はイランまで、人びとは、再び自分たちの力を信じて、立ち上がった。
・激しい鎮圧で、イラクでは少なくとも500人が、イランでは300人以上が、死亡した。
・政府批判や抗議は、手痛い弾圧を受けた。
・インターネット上の発言で、12カ国で少なくとも136人が拘束された。

2019年を通じて、中東・北アフリカ諸国で、多数の市民が、社会の正義と政治改革を求めて街頭に繰り出し、大規模な抗議デモを行ったが、治安部隊に激しく鎮圧され、人びとの権利は、踏みにじられた。

複数の国で治安当局は、過剰な力で抗議デモを鎮圧した。イラクとイランでは、殺傷力のある武器が投入され市民数百人が犠牲になった。アルジェリアでは、多数のデモ参加者が逮捕・起訴された。

この地域の各国政府は、活動家がソーシャルメディアを使った呼びかけを増やす中、彼らのインターネット上での批判発言を摘発し、起訴した。

自分たちの人権、尊厳、社会正義、汚職の摘発などを求めて、徹底抗戦を覚悟する人びとが街にあふれた。そして、権力の脅しに屈しないことを示した。

中東・北アフリカ諸国にとって、2019年は抵抗の年であるとともに、まだ希望があることを示した年でもあった。

2011年のアラブの春では、シリア、イエメン、リビアの反政府デモが流血に染まり、エジプトの人権状況が大きく後退した。しかし、2019年、「市民が結集すれば変えられる」という信念が復活した。

中東・北アフリカ地域の抗議デモは、世界中の権利を求める運動の起爆剤となった。

スーダンでは、デモは一旦、鎮圧されたが、その後、政府とデモを主導した組織との間に合意が結ばれた。

デモ隊に対する弾圧

中東・北アフリカ全域で、当局は拡大する抗議デモの封じ込めにさまざな手段を使った。

イラクとイランだけでも、治安当局による実弾使用で数百人が死亡し、数千人が負傷した。イラクでは至近距離からの発砲や飛来する催涙弾に怯むことなく、抗議活動が続けられた。イランでは11月、燃料費の値上げに抗議するデモが鎮圧された際、4日間で、300人以上が犠牲になり、数千人が負傷した。

9月には、イスラエルと被占領パレスチナ地域に住むパレスチナ人女性たちが、ジェンダーに基づく暴力とイスラエル軍の占領に抗議するデモを行った。ガザとヨルダン川西岸地区であったデモでは、パレスチナ人数十人が犠牲になった。

アルジェリアでは、20年も政権の座にあったブーテフリカ政権に抗議するデモが激しくなり、多数が逮捕・起訴されたが、デモにより大統領は辞任に追い込まれた。

10月から始まったレバノンの抗議デモは、幾度となく過剰な弾圧に遭ったり、政権派グループの襲撃を受けたりしたが、抗議デモは政権の崩壊につながった。

エジプトでは9月、これまでほとんどなかったデモが起こり、4,000人以上が逮捕・勾留された。

いずれの国でも、政権は市民の抗議を封じ、発言する権利を踏みにじった。

当局は、抗議する市民の鎮圧をやめ、社会的、経済的、政治的な公正と権利を求める市民の声に耳を傾けるべきである。

インターネットでの批判を弾圧

2019年も各国は、インターネット上で表現の自由の権利を行使した人びとを弾圧し続けた。国に批判的な意見や動画をソーシャルメディアに投稿したジャーナリスト、ブロガー、活動家らが、逮捕・起訴され、その数は、12カ国で136人に上った。

当局はまた権力を乱用して、インターネット情報の閲覧や共有を禁止した。

イランでは、治安部隊がデモ隊を殺傷する様子を撮った動画や写真が流れると、インターネットを遮断して閲覧を阻止した。ソーシャルメディアが使えない状態も続いた。

エジプト当局はメッセージアプリの利用を阻む措置を取り、インターネットを検閲した。インターネットの検閲は、パレスチナでも行われた。

複数の国が、インターネット上で人権擁護活動家の動きを監視した。

モロッコでは、人権擁護活動家の監視にイスラエル製のスパイウェアが使用された。同じスパイウェアが以前、サウジアラビアとアラブ首長国連邦の活動家とアムネスティの職員に使用されたことがあった。

拘束された人数では、地域全体で367人(うち240人はイラン)が拘束され、118人が起訴された。その徹底した取り締まりは、各政権がインターネット上の批判を脅威と捉えていることの表れだった。

各国の関係当局は、表現の自由の権利を行使して拘束された人びとを即時無条件に釈放し、今後、政府批判に対する取り締まりをやめなければならない。

希望の兆し

これまでは、抗議する市民が人権侵害を受けても、いずれの当局も責任を問われなかったが、2019年は小さくはあるが歴史的な前進があった。

国際刑事裁判所(ICC)は、被占領パレスチナ地域で戦争犯罪があったとして、ICCの管轄権が認められ次第、捜査を始めると発表した。捜査が実現すれば、数十年にわたる不処罰に終止符を打つ可能性が出てくる。捜査対象には、ガザ地区でイスラエル側がデモ参加者を殺害した事件も含まれるという。

同様にチュニジアでは、真実・尊厳委員会が最終報告書を発表、8件の裁判が始まり、ようやく治安部隊が過去に犯した人権侵害の罪が問われることになった。

長年にわたる女性の権利運動の結果、限定的ながら女性の権利が向上した。しかし、運動に対する容赦ない取り締まりや女性に対する社会的差別は続いた。

サウジアラビアでは、女性の行動に夫など男性親族の許可を義務付ける後見人制度の改革がようやく始まったが、一方で、人権擁護活動をする女性たちがこの1年、不当に拘束された。

湾岸地域の複数の国で人権状況に改善があった。その一つが移住労働者の保護に向けた改革だった。

カタールは、カファラ制度(雇用主が労働者の保証人になる制度)を廃止し、移住労働者が必要な時に申し立てをしやすくする対応を取ることを約束した。

ヨルダンとアラブ首長国連邦も、カファラ制度の改善に向けて対応することを示唆した。

しかし、この地域の移住労働者が、搾取と人権侵害に苦しめられる現状は、この年も変わらなかった。

抗議活動を弾圧し、政府批判や人権擁護活動を摘発しても、人びとの基本的権利を求める声を封じることはできない。各政権は、このことをしっかり肝に銘じなければならない。

為政者は、権力維持に人権侵害や犯罪を利用することをやめ、市民の要求に耳を傾け、関係当局の責任を問うことができる権利を保障すべきである。

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