「下のカーストを優遇しすぎ! だから僕は日本にやって来た」、バラモンのインド人留学生が本音語る

埼玉大学の3年生で、経済協力開発機構(OECD)学生大使のアトレー・シュレヤスさん。「日本でずっと暮らしたい」と流ちょうな日本語で話す埼玉大学の3年生で、経済協力開発機構(OECD)学生大使のアトレー・シュレヤスさん。「日本でずっと暮らしたい」と流ちょうな日本語で話す

「インドでは上位カーストの若者は希望する大学にも入れない。これは逆差別」。こう不満をもらすのは、埼玉大学に通うインド人留学生で、最上位カーストであるバラモンのアトレー・シュレヤスさんだ。貧富の差をなくそうとインド政府は独立3年後の1950年から、下位カーストの人たちを大学入試や公的機関への就職で優遇する「留保制度」を導入してきた。インドの政治家にとっては、多数派の下位カーストの人気取りをするのが選挙で勝つうえでは重要。こうした大衆主義をインドでは“カースト・ポリティクス”(カーストの政治利用)と呼ぶ。

■過半数に優遇政策!?

カースト制度が憲法で廃止されたのは1950年。これと同時にインド政府が導入したのが留保制度(アファーマティブ・アクションの一種)だ。歴史的にひどい差別を受け続けてきた「ダリット」(不可触民)らに、国・州議会の議席や大学への入学、公務員の採用などの枠を優先的に与え、差別と貧富の差を解消することを目指す、というのが目的。ちなみにインド国内では、ダリットは差別用語に当たるため、「指定カースト(SC)」という言い方をする。先住民は「指定部族(ST)」と呼ぶ。

留保制度は、こうした弱者を救うことにつながるとの見方もある一方で、上位カーストの間では「必要な政策とは思うが、下位カーストをあまりに優遇しすぎ」(アトレーさん)との不満もくすぶる。その最大の理由は、優先枠をもてる下位カーストの数が多すぎることだ。SCとSTだけでインド全人口の25%に相当する。これに加えて、「その他の後進カースト(OBC)」という優先枠も後から作られた。対象となるカースト(主にシュードラ)は3000以上で、その数は全人口の27%。SC・STとOBCをあわせれば、インド人の52%にものぼる。

カースト制度は、「ヴァルナ」と呼ばれる身分カースト(上からバラモン、クシャトリヤ、ヴァイシャ、シュードラの4つ。ダリットは“カーストの外”という扱い)と、「ジャーティ」と呼ばれる職業カーストの二本柱で構成される。カーストの数は3000以上ある。

■カーストは政治の道具だ

アトレーさんは言う。「カーストというと、多くのインド人は『政治』をイメージする。選挙のたびに、候補者らは下位カースト向けの優遇政策を掲げ、効率的に票を集めようとする。カースト・ポリティクスは本当に嫌になる」

世界最大の民主主義国家であるインドでは、カースト・ポリティクスの影響から、留保制度は拡大の一途をたどっている。1990年代からは公務員の昇進にもSC枠が設けられるようになった。少しでも恩恵にあやかろうと、カーストを下げてまでOBCに加わろうとする動きが「カースト暴動」にまで発展したこともある。

カースト・ポリティクスのいわば“頂点”に立つのが、OBCのナレンドラ・モディ首相だ。OBC枠でなければ国会議員にさえなれなかったのに、といった批判的な声も上位カーストの間ではささやかれる。また奇妙なのは、上位カーストの政治家らも、当選するためにあえて上位カーストの悪口を言い、下位カーストのご機嫌取りをすること。「これが今のインド政治の姿だ」とアトレーさんは嘆く。

■グーグルのCEOはインド人

アトレーさんはインド西部の都市プネー出身。カーストは最上位のバラモンだ。「インドで僕は、希望の大学に入れなかった。だから日本の大学にやってきた」と話す。

「上位カーストでも貧しい人はいる。昔と違い、僕の地元ではバラモンの6割が貧しい。日本の奨学金がもらえたから僕は留学できた。いろいろ大変だった」とアトレーさん。勉強のかたわら、さいたま市の居酒屋で毎日アルバイトする生活を送っている。

留保制度の中身は州ごとに違う。プネーがあるマハラシュトラ州の場合、大学への入学枠の6割はSC、ST、OBCに優先的に割り振られる。同じ成績であれば、バラモンというだけで不利になるのが現実だ。

マハラシュトラ州ではまた、公的雇用の80%はSC、ST、OBCにするとの法律もある。このため上位カーストのほとんどは民間企業へ就職するという。

「下位カーストが過剰に優遇されるのはおかしい。こうした社会を嫌って、優秀なインド人は米国へたくさん出ていった。マイクロソフトやグーグルのCEO(最高経営責任者)はインド人。NASA(米航空宇宙局)の科学者も36%がインド人。優秀な人材がインド国内で公平に活躍できる環境があれば、インドはもっと良くなるのに‥‥」。アトレーさんはこう悔しがる。