「飢餓を避けるために今すぐ行動を!」とオックスファム、IPCCの報告書受け

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国際NGOのオックスファムは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発表した「第5次評価報告書(第2作業部会報告書)」を受け、報告書の「ハイライト」とそれに対する同団体の「提言」を発表した。今回の報告書の最大の特徴は、気候変動が食料安保を損なうと結論付けたこと。飢餓を避けるためには政府、企業、市民が三位一体となって緊急にアクションを起こす必要がある、とオックスファムは訴える。

■報告書のハイライト、栄養不良の乳幼児が2500万人増加

・農作物や食料生産に対する気候変動の影響は、世界のいくつかの地域で明白(確信度が高い)。

・2007年の第4次評価報告書では、気候変動は高緯度地域の農作物にとって好ましく、他の地域での悪影響を補える可能性もあるとしていた。だが今回の第5次評価報告書は悪影響のほうが多いと指摘する。

・世界全体の統計でみると、多くの地域で1960年以降、気候変動はコムギやトウモロコシの生産量に悪影響を与えている。

・極端な気象現象が近年の食料価格の高騰の一因になっている。人為起源の温室効果ガスの排出で、極端な気象現象が発生する確率が高まった。IPCCは今回初めて、気候変動と食料価格の関係性に言及した。

・適応策(気候変動の抑制ではなく、起こる事象に対応すること)を打たなければ、局所的な気温が20世紀後半から2度上昇しただけで、熱帯・温帯地域では主要穀物(小麦、コメ、トウモロコシ)の生産性が損なわれる。

・第4次評価報告書は、局所的な平均気温が1~3度上昇すると、地球全体の穀物生産量は増加する傾向にある、としていた。

・研究の75%は、穀物生産量は2030年代から、最大50%減少すると予測する。

・今回の報告書は、気候変動の影響が2050年までに食料価格を3~84%押し上げる可能性が非常に高い、と予測する。

・食料需要の増加が予測されるなか、世界の気温が20 世紀から4度以上上がると、食料の安全が脅かされるリスクが大きい、とIPCCは指摘する。

・農作物の熱への耐性には生理的限界がある。報告書によると、トウモロコシ、コメ、コムギ、ダイズなど主要穀物の生産は通常40~45度の気温が絶対的な限界。種まきは35度前後の気温が限度とされる。

・気候変動は、途上国の5歳未満児にとりわけ被害を与える。IPCCが引用した研究によると、栄養不良の5歳未満児は2050年までに2000万~2500万人(17~22%)増える。栄養不良に起因し、深刻な成長阻害となる子どもは中部アフリカで23%、南アジアでは62%増加する。

・栄養不良の子どもの数は減っている。だが気候変動は、経済成長の可能性を考慮しても、この進展を覆す可能性がある。

・気候変動は1人当たりのカロリー摂取量を減少させるため、途上国では子どもの栄養不良やそれに伴う死亡率が上がる。

・今回の報告書は初めて、適応策への必要額と実際の拠出額の間に大きな隔たりがあることを指摘した。世界全体の適応策への必要額は、世界銀行の推定では年間700億~1000 億ドル(7兆~10兆円)。

・二酸化炭素の排出量を今後数年で抑制すれば、農作物収量の減少、水不足、海面上昇、熱波、洪水、干ばつなど、気候変動のリスクを21世紀後半に大幅に低らせる。

■オックスファムの提言、市民は食料廃棄をやめよう

オックスファムは、気候変動の脅威は高まっているものの、飢餓は不可避ではない、との見方を示している。ただそのためには、政府、ビジネス界、市民は「行動」を緊急に起こすことが不可欠。オックスファムが求める行動は下のとおり。

・政府や企業は、世界の人々の食料への権利を尊重し、保護しなければならない。そのなかには、飢餓や気候変動に対する強靭性(レジリエンス)を高めることも含む。

・裕福な国の政府は、最貧国や脆弱国を支援すると約束した内容を守るべき。貧困国の適応策に必要な額は年間約1000億円と見込まれているが、これは世界の最も裕福な100人が保有する資産のたった5%。

・各国政府や企業は、温室効果ガスの排出を削減しなければならない。政府は、気温上昇を世界平均で1.5度未満に抑えるために公平で大幅な排出削減を約束しなければならない。企業もまた、同様に排出削減に取り組む必要がある。具体的には、食品飲料業界であれば原料の仕入れ先が森林破壊しないようサプライチェーンをチェックすべきだし、金融業界だと、化石燃料ではなく、持続可能なエネルギーへ投融資すべき。

・各国政府は、2015年までに合意を目指す国連気候変動交渉で、公平で、野心的で、法的拘束力のある気候変動枠組みを採択するとともに、気候変動と飢餓に取り組む国際条約を実現すべき。

・2025年までに世界中から飢餓を撲滅させる「ゼロ・ハンガー目標」を各国政府は支持し、国連ポストミレニアム開発目標のなかの気候変動に関連する目標にも賛成すべき。

・市民は、食料廃棄をやめ、肉の摂取量を減らし、食品企業に責任ある行動を求めるなど、飢餓を引き起こす気候変動を止めるために行動すべき。
(堤環作)