LGBTへの弾圧強めるアフリカ、人権を認めない国への援助はどうあるべきか(下)

アフリカの作家が描いた絵(記事とは関係ありません)

LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー=性的少数者)への差別が強いのは、「LGBTへの弾圧強めるアフリカ(上)」で取り上げたウガンダとカメルーンだけではない。今回はナイジェリアやリベリア、ジンバブエ、さらにはアフリカ以外の国の実情に触れながら、LGBT差別の背景と国際社会のかかわり方について考えてみたい。

■ナイジェリア、ゲイ団体の運営・参加を禁止

アフリカ最大の人口(約1億6000万人)を誇るナイジェリアでは先ごろ、裁判所が、同性愛行為をしたナイジェリア人俳優に対して懲役3カ月の刑を言い渡した。検察によると、この俳優は自宅で友人のきょうだいと性体験をもったという。相手が警察に通報し、発覚した。

これについてノリウッド(ナイジェリア映画界)の俳優は「酔っぱらって家に帰り、ベッドにガールフレンドが寝ていると思った。間違っただけ」と“釈明”しているが、判事は「アルコールは言い訳にならない」と却下した。

ナイジェリアの刑法は1960年の同国独立以来、植民地時代の法律の名残として、「風俗犯罪」を罰する条項をもつ。風俗犯罪とは、動物との性行為や同性愛行為、いくつかの異性間行為を指す。通常は政争のさなかにライバルを陥れるために使われるケースが多く、ナイジェリアではLGBT関連の起訴は少ないという。

ところが風俗犯罪での取り締まりでは不十分と考えたのか、ナイジェリア上院議会は11年11月、LGBTの人権侵害を強める法案を承認した。この中には、ゲイ同士の結婚はもとより、同性愛カップルが公共の場でいちゃつく行為(PDA)、ゲイクラブやゲイ団体の運営・参加などを法的に禁止する条項が含まれている。罰則は10~14年の懲役。ただこの法律はまだ施行されていないようだ。

■リベリアとジンバブエも差別法案を審議

リベリアでは上院議会が7月、同性婚を禁じる法案を満場一致で可決した。この法案を提出したのは、リベリア内戦を引き起こしたチャールズ・テーラー元大統領の前夫人、ジェウェル・テーラー上院議員だったという。

この法律とは別に、同性愛者の性行為を「第一級の重罪」とする差別をより厳格にした法案が目下、下院で審議中だ。だがエレン・サーリーフ大統領は、LGBTへの差別を強めるにしろ弱めるにしろ、すべてのLGBT関連法案を拒否する姿勢を示している。

ジンバブエでは、ロバート・ムガベ大統領はかねて、ゲイに対する嫌悪を公言してきた。8月には、LGBTの人権団体「ジンバブエのゲイ・レズビアン(GALZ)」への迫害を強め、LGBTの人権を訴えるデモに参加したGALZのメンバー44人を罪状なしで逮捕した。警察はその直後、GALZのコンピューターと印刷物を押収。GALZの代表者には「無登録の団体を運営した」容疑をかけている。

サブサハラアフリカでは、LGBT差別が終息する気配はない。むしろLGBTを排除する動きは増大する傾向にある。

■米国の半分の州でもソドミー法は存在

アフリカのLGBT差別には長い歴史がある。またその過程で複雑な要素が絡み合っており、それがこの問題をいっそう難しくさせている。

英国がソドミー(男性同士の性行為)法を持ち込んだ以外にも、宗教の観点からいえば、イスラム教はシャリーア(イスラム法)で同性愛を禁止している。たとえば同性愛を死刑とするイランでは、国際社会の目をくらますために、「麻薬の密売」などといった別の罪を負わせてまで処刑するのが常套手段だという。

さらに数百年に及ぶキリスト教的道徳のなかで「LGBTは淫乱」と喧伝され続けてきた過去がある。大英帝国の絶頂期だったビクトリア朝(1837~1901年)時代には生殖目的以外の性行為は自然に反するとされ、それが徐々に、同性愛を弾圧するという意味付けに変わっていった。この思想がアフリカに定着している。

アフリカ固有の文化としてはマッチョ主義がある。アフリカに詳しいNGO関係者は「アフリカは広大な地域に人口が少ない。人口を減らす圧力がとても強い地域だ。1人でも子どもを多く生ませるほうが“偉い”という力が働くとしても、それは自然の摂理だろう」とアフリカの自然・気候面から分析する。

欧米や中南米では1960年代に、LGBTの解放が進んだ。だが死文化しているとはいえ、いまだに先進国とされる米国の半分の州でソドミー法は存在する。またブラジルでは、都会でこそ権利は認められているが、国全体でみると年間およそ200人のLGBTが暴力で殺されているといわれる。

植民地支配、宗教、自然・気候などさまざまな影響を引きずるアフリカのLGBT差別。先進国でも解決が容易ではないなか、最も過酷な状況に置かれ続けているのがアフリカのLGBTだ。

■ドナーは“脅し”ではなく「支援」を

アフリカのLGBTの人権侵害に国際社会はどう対応すべきか。デービッド・キャメロン英首相の発言のような「LGBTの人権を認めない国に援助はしない」という“脅し”は有効なのか。

あるNGO関係者は「英国が最初にすべきは、植民地支配の負の遺産であるソドミー法について謝罪すること。そして一足とびに『同性婚』を認めろと働きかけるのではなく、(LGBTに対して頻発する)暴力を止めさせるのが先決だ。それから、その他の差別をなくしていく。その後に初めて、同性婚の話になるのではないか」と段階を踏んだアプローチの必要性を訴える。

キャメロン発言は実際、LGBTの人権や立場をサポートするどころか、逆にアフリカ諸国の怒りを買ってしまった。価値観を無理に強制しようとしても反発を招き、逆効果になるという教訓を示したといえる。

援助の停止をちらつかせたり、懲罰を加えたりして、仮にソドミー法を廃止できたとしても、LGBTへの差別が消えるわけではない。LGBT問題を深く考えるうえで重要なのは、「LGBTを差別する法律」と「LGBTへの暴力行為」は“別の話”と認識することだ。

援助のあり方についてNGO関係者は「(援助をやらないと脅すより)LGBTの人権保護や平等確立に向けて運動するNGOを支援するほうが良いのでは。ソドミー法廃止基金みたいなものを立ち上げてはどうか」と提案する。(「上」はこちら