平均体重は男女とも95キロ台! 何がトンガを世界一の肥満大国にしたのか?

エアロビクスの大会に参加するトンガ人たちエアロビクスの大会に参加するトンガ人たち

世界屈指の「肥満大国」トンガ。2013年の国際共同調査(GDB2013)では、成人男女の肥満率が世界一となり、国民の6割ちかくが肥満とされる。世界保健機関(WHO)の調査によると、トンガ人の平均体重は2014年で男女ともに95キログラム台。過去40年で約20キログラムも増加した。どうしてトンガでは肥満が増えているのか探ってみた。

■シェア文化は良くない?

原因のひとつは食習慣の変化だ。タロイモやヤムイモ、ココナツ、バナナなどを使った伝統的食事に代わって、コーンビーフやスパムなどの高カロリーな加工食品が食卓に並ぶ機会が増えた。こうした加工食品は安価なうえ、調理の手間がかからない。利便性も受けて一般家庭に浸透している。

トンガでは平日の昼間、ファレコロアと呼ばれる商店の前に子どもたちが並び、大量の油で揚げたパン「ケケ」や、お湯をかけていない状態のインスタントラーメンをバリバリと食べる光景をよく見かける。子どもたちにとっては、加工食品がもはや「当たり前」の食事になっている。

トンガの国立ヴァイオラ病院の糖尿病担当医師のナアチ・エリシヴァさんは「トンガでは誰かが食事をするとき、食べ物をみんなにシェアする文化がある。そのため食事の量や時間をコントロールすることが難しい。そのことも糖尿病になる原因のひとつだ」と指摘する。

2年前から治療中という糖尿病患者の家を訪問したとき、こんな出来事があった。4人の子どもの母親であるトゥイ・パセパさんは「糖尿病と診断されてから、初めて、自分や家族の食生活を見直した。子どもたちにはお菓子やジュースを与えないようにしている」と涙ながらに話した。

ところがその直後、彼女の子どもたちが笑顔で帰宅。彼らの手には、1人1斤の食パンと、バター丸々ひとつが握られていた。いくら母親が注意しても、近所の家や友人から食べ物をもらってきてしまうのだ。

「カイポーラ」と呼ばれるトンガの食事会

「カイポーラ」と呼ばれるトンガの食事会

■車の普及が病気を生む

車の普及による運動不足も肥満の原因のひとつとなっている。

トンガで33年にわたって生活習慣病対策に携わるロトゥ・ハヴェアさんは「私が子どもだった1960年代は、子どもたちは4キロ以上離れた学校まで徒歩で通い、大人たちも畑まで歩いていった」と振り返り、車の普及が1日の運動量を大幅に減らすと分析する。

たかが運動不足、たかが肥満と侮ってはいけない。というのも、WHOは、肥満を「非感染症疾患(NCD)」の5大要因のひとつに挙げているからだ。

NCDとは、不健康な食事、運動不足、喫煙、過度の飲酒などを共通の原因とする疾患をまとめた名称。糖尿病やがん、心血管疾患などが代表例だ。世界では年間3500万人がNCDで命を落とす。トンガを含む大洋州の国々はNCDのリスクが特に高いとされる。2008年のトンガの死亡者の74%がNCDに起因するとの報告もある。

■運動するトンガ人も

こうした状況を受け、トンガでも、肥満対策を含めたNCD対策が本格化してきた。

2013年に保健省が、NCD対策に特化した看護師の養成制度を発足させ、翌年から第1期生20人が病院で活動を始めている。また、トンガのアキリシ・ポヒヴァ首相は10月、国連開発計画(UNDP)のヘレン・クラーク総裁と会談し、NCD対策を、ジェンダー問題と並び、2030年をゴールとする「持続可能な開発目標(SDGs)」の重点課題として挙げた。

またトンガ政府はこれまで、日本の国際協力機構(JICA)から合計44人のボランティアを、栄養や生活習慣の改善指導などNCD対策として受け入れている。

ハヴェアさんは「生活習慣を改善させようという啓発活動が奏功し、ランニングやウォーキングなどをするトンガ人も出てきた。政府やNGOの支援を受け、家庭菜園を始める家庭も増えている。肉ばかりでなく野菜も意識して食べるようになりつつある。時間はかかるが、根気強く活動していきたい」と話す。