バングラデシュ政府が“世銀に頼らず”橋を建設へ、背景には「汚職疑惑」?

バングラデシュ南部では住居のそばまで水で満たされている状況が多く見られる

ガンジス川などの河口デルタに位置するバングラデシュは川の中にある国と言っても過言ではないだろう。まだ、南部を中心に小型の手こぎ舟が人々の移動手段として大活躍している。主要道路では大規模な橋が整備されている部分がある一方で、フェリーによる渡河のために時間を要する部分も残されている。

前者で著名なものは、日本からの円借款により整備されたジャムナ橋であろう。後者では、首都ダッカの南西約30キロメートルに位置し、南西部の主要都市クルナやジョソールへ向かう幹線道路をつなぐパドマ川のフェリーがある。ここに全長6.15キロメートルの橋梁・パドマ橋を整備する計画がある。

4月18日付アルジャジーラでは、この橋の建設のためバングラデシュ政府が2013~14年の国家予算で総建設費の3分の1となる8億8000万ドル(約890億円)を確保すると報じられた。これだけ大規模のプロジェクトをバングラデシュが独自に行うことは今までになかったことであり、予算の確保のためにソブリン債の発行も検討されている。

シェイク・ハシナ首相は、この橋梁建設プロジェクトにより「われわれは世界に乞食ではなく、達成者であることを証明するだろう」と表明した。また、ある経済学者は物流などを効率化する「橋の建設はバングラデシュの国内総生産(GDP)を毎年1%押し上げるだろう」としている。

ただし、独自の国家予算による建設を進める背景には、これまで進められてきた世界銀行などをドナーとしたプロジェクト内での汚職疑惑も要因としてあるようだ。もともと世界銀行は疑惑が提起された際に、バングラデシュ政府に対して真相究明の調査が徹底的に行われれば支援を再開するとしていた。しかし、その調査が不十分なものと判断されたため12年6月に12億ドル(約1200億円)の支援を取り消すことを発表。これに対して、バングラデシュ政府は13年1月に世界銀行への支援要請を取り下げることを決めた。

問題はバングラデシュ政府だけの問題にとどまらず、コンサルタント契約を結んでいたカナダ企業にも広がっており、同社は世界銀行との取引が今後10年間停止されることとなった。このような状況で、野党であるバングラデシュ人民党からは「汚職疑惑をうやむやにするために自国予算でプロジェクトを推進しようとしている」との批判があがっている。

バングラデシュでは13年3月、独立時の戦争犯罪の取り扱いに対して大規模な暴動も発生しており、与党であるアワミ連盟は国家威信を高めることで苦境を切り抜けたい考え。自国予算によるパドマ橋建設プロジェクトの実施は経済の強さを対外的に示し、国民の自尊心をくすぐるものになるとみる専門家もいる。

一方で、自国予算だけでまかなうにはリスクが大きすぎると考える人も多い。いずれにせよ、バングラデシュの発展に橋は欠かせないインフラであり、将来的にパドマ橋が建設されることは間違いない。しかし、これからも完成までには様々な紆余曲折があると考えられる。このようなパドマ橋を取り巻く情勢から、バングラデシュの未来が占えるのではないだろうか。(真下智史)