【ガーナNOW!女子大生は見た(2)】大学で3週間のスト! 正当性を考えてみた

0906矢達さんphoto人気のないガーナ大学図書館前

日本からガーナに留学して早々、驚きの出来事に直面した。憧れだったアフリカでの授業を受けられると楽しみにしていた矢先、留学先のガーナ大学の教員らがストライキを起こしたのだ。当然のごとく、8月の第2週から始まるはずだった授業のほとんどがキャンセルに。ストライキは3週間以上続き、9月4日に一応終了した。今回は、ストライキから見た途上国の苦悩について考えてみたい。

■スト慣れする地元学生と動揺する留学生

ストライキに踏み切ったのはガーナ大学教員組合(UTAG)だ。ガーナ政府に対して、2012年に未払いだった給料の支払いを求めた。厳密にいうと、基本給ではなく、「マーケットプレミアム」(医師や大学教授など、高いスキルをもった公務員に支払われる手当)と本・研究手当を払え、というのが要求内容。マーケットプレミアムとは、優秀な人材を公共部門に呼び込むため、ガーナ政府が10年に導入した制度だ。

実は、UNTAGはこの4月にも、同様のストライキを打ったばかり。このときは政府と交渉した結果、未納分は4~7月に4回にわたって支払われるということで決着した。ところが、実際に受け取ることができたのは4月の1回のみ。というわけでUTAGは再度、ストライキを起こしたのだ。

「交渉してやっと合意したのに、政府は約束を守ってくれない。すべてを受け取るまでストライキはやめられない」。UTAGレゴン(首都アクラの郊外)支部のラングボング・ビミ代表はストライキの理由をこう説明していた。一連の動きを目の当たりにして私は、政府と大学教員が足を引っ張りあうのではなく、国家の発展という同じ目標に向かってもっと協力できないものなのかな、と感じた。

ストライキの期間中、普段は人であふれかえるキャンパスはとても静か。ほとんどの学生は姿を見せず、つかの間の休暇を楽しんでいたようだった。ガーナ人の大学生らは“ストライキ慣れ”している、と私の目には映った。

対照的だったのは、先進国からの留学生たち。大学でのストライキという“非常事態”に、動揺と怒りを隠せないでいた。「こんな長い大学ストライキ、私の国じゃありえない。学費も払っているのに!」とアメリカ人は叫んでいた。

国際化を進めたいガーナ大学は、全学生に占める留学生の比率を現在の3%から10%に増やすとの目標を掲げている。だがストライキ騒動はガーナ大学の評判を傷つけかねない、と大学関係者は懸念していると聞く。

■良い教育に教員の待遇改善は不可欠

ガーナでは、大学に限らず、ストライキは日常茶飯事だ。13年4月には金山でストライキが発生し、生産がストップ。このため、ガーナ経済をけん引する資源のひとつである金の第2四半期の産出量は5%減ったという。経済へ与える影響は小さくなかっただろう。

ガーナ大学の教授のひとりは「ストライキのせいでガーナの発展は遅れている。持っている人的・物的資源を有効に活用できていないと感じる。もどかしい」と不満を募らせる。

とはいえ、ストライキをやめれば、万事が解決するわけでももちろんない。大学の教員にとっては、質の高い教育を学生に提供するには、十分な研究費用のサポートは不可欠という事情がある。そもそも通常もらえる研究手当でも決して十分ではない、と教授はこぼす。

研究費を調達するために、自分で基金を探し、応募する。「応募書類の準備と大学での授業に追われ、研究する時間がとれない。しっかり研究しないと、きちんとしたことは教えられないのに」(同)

ただだからといって、大学でストライキをひんぱんに打ち、教員の待遇改善を求めるのはどうなのか。この問いに教授は「ジレンマを感じている。短期的な視点でみると、学生や大学の評判に悪い影響を与えているかもしれない。けれども、長期的には教育の質改善につながるはずだ」と言い切る。

■「頭脳流出」を食い止めるため?

ガーナは80年代、大学教授や医師、看護師などの優秀な人材がナイジェリアやコードジボワールなどへ出ていく「頭脳流出」に悩まされていた。当時のローリングス大統領が知識層を弾圧する軍事政権を敷いたためで、ガーナ経済が疲弊していたこともこの傾向にさらなる拍車をかけた。

ところが92年に民主化したこともあって、ガーナ経済は安定しだし、それと軌を一にして、頭脳流出のトレンドも収まりつつある。国際移住機関(IOM)が09年に発表したレポートでも「ガーナの平和と政治的安定は、流出した国民の帰還(頭脳還元)をもたらすだろう」と指摘している。

私は試しに、ガーナ大学の教授数人に「国外で働こうと思ったことはあるのか」と質問してみた。答えは全員が「ない」。

「ガーナは政治的にも経済的にも安定している。人もとても親切。こんなに生活しやすい国はない。外国へわざわざ働きに行くより、ストライキを通じて、国内でより良い労働環境を作るほうがいい。なにより、私はガーナを愛している。この国の発展に貢献したい」(教授のひとり)

この国でむしろ深刻とされるのは、優秀な人材が公共部門ではなく、民間へ流れてしまうことだ。これを阻止しようとマーケットプレミアムなどの手当が導入されたという事情もある。ただ結局は、予算不足で支払われていないのだが‥‥。

ガーナのような途上国が発展していくには、机上の理論だけで物事をとらえても、現実との間に大きなかい離がありすぎる。予算が限られる中で、どう振り分けていくのか。発展するまでのプロセスには多くの闘いや犠牲が伴うのだな、とストライキのさなかに私は思った。