近代文明の介入なかったパプアニューギニア、体調悪いと「黒魔術」疑う!?

0315廣瀬さん、DSCN4236葬儀でシェルマネーを扱うパプアニューギニアの人たち

「パプアニューギニアは近代文明との接触(ファーストコンタクト)が世界で最も遅いエリアのひとつ。例えば内陸部ヨリアピのファーストコンタクトは1965年だった」。これは「世界でいちばん石器時代に近い国 パプアニューギニア」の著者、山口由美氏が話したもの。近代文明との接触が遅かった分、独特な文化が根付いている。

■焼き殺される事件も

黒魔術とは特定の人に、病気を患わせたり、死亡させたりする呪いのことだ。「パプアニューギニア人は、戦闘による怪我で死ぬことは理解できたが、病気や寿命で死ぬことは理解ができなかった」(山口氏)。そのため黒魔術が広く信じられていた。現在のパプアニューギニアには病院もあるにはある。しかし体調不良の原因がわからない場合や、症状が改善されない場合、今でも人々は黒魔術を疑う。

自分に黒魔術をかけている人を特定してくれるのが、「ウィッチドクター」(魔術の医者)と呼ばれる職業だ。方法はショウガに念じたり、弓を用いたりと部族によって異なる。

恐ろしいのは“ウィッチドクターの独断で”加害者と特定された人に被害者から報復行為が及ぶことだ。「報復により殺される人もいる。加害者とされる人は、女性や老人、貧しい人など立場の弱い人が多い」と山口氏は話す。2013年2月には、内陸部のマウントハーゲンで、黒魔術をかけたとされた女性が拷問を受けたのち、焼き殺されるという事件が起きた。

この事件までパプアニューギニアでは、黒魔術を理由とする罪は減刑されるという「黒魔術法」が存在していたが、これを廃止。パプアニューギニア政府は、黒魔術を理由にする犯罪は厳格に処罰する姿勢を見せている。

■「貝のお金」が流通

「シェルマネー」という貝を束ねて作られるお金が、トーライ族という部族で今も使われている。シェルマネーは、ナッサ貝という小さな貝に穴をあけ、木のツルを通し紐状にしたもの。ナッサ貝は、トーライ族が暮らす近辺では採取できない。価値を決めるのは貝を通したツルの「長さ」だ。「1メートルで約200円」(山口氏)

トーライ族が暮らす村では、「シェルバンク」というシェルマネーを扱う銀行もあり、多額になれば何重にも束ねた輪っかの状態で取引される。「日常生活では通常の通貨を使うものの、冠婚葬祭で現金は失礼とされ、シェルマネーが原則用いられる」と山口氏は説明する。

■仕返しの習慣も

パプアニューギニアには800以上の民族が暮らしており、言葉も全然違う。そのため同じ言葉を話す人たちを「ワントーク」と呼ぶ。「仲間意識は非常に強く、助け合いの文化も根付いている」と山口氏は説明する。また仲間を大切にするという価値観は観光業でも、「ホテルやガイドが客を裏切るような話は聞いたことがない」(山口氏)と良い影響を与えている。

しかし一方で、結束の強さは別のワントークへの敵対心を生むことにもつながる。

パプアニューギニアには「ペイバック」という、自分が何らかの被害を受けた際に、仕返しをする習慣がある。その矛先は“相手のワントーク内の誰か”であるため、民族間の争いに発展することもある。

ニューギニア島は18世紀、英国やドイツ、オランダなどの植民地となった。だが、内陸部はジャングルだったことや、マラリアが蔓延していたなどの理由で支配は沿岸部にとどまった。そのため内陸部では近代文明と接触することなく、独自の文化を発展し続けることができた。

その後、パプアニューギニアでのゴールドラッシュ(金が発掘されたことで、採掘者が殺到すること)や、オーストラリアによるパトロールオフィサー(外界と接したことのない部族と政府をつなげ、平和維持を進める地方行政官)によりすべての民族がファーストコンタクトを終えたといわれている。