世界銀行は6月12日、2016年10月に発表した年次報告書「貧困と繁栄の共有2016:格差の解消に向けて」を紹介するセミナーを都内で開いた。報告書によると、1日1.9ドル(約210円)未満で生活する最貧困層の数は、1990年には約18億5000万人(世界人口の35.0%)いたが、2013年には 約 7億6700万人(同10.7%)と、23年間で10億8300万人減った。報告書の作成を統括したアナ・レヴェンガ世銀副チーフエコノミストは「世界の人口が19億人増えたにもかかわらず、最貧困層が減少したのは素晴らしい。あと7億6700万人の生活レベルを引き上げたい」と述べた。
■東アジア・大洋州は9億人減
最貧困層の数を地域別にみると、ほとんどの地域で減った。最も成果が出たのは東アジア・大洋州。90年の約9億6600万人(域内人口の60.2%)から13年は約7100万人(同3.5%)へと、9億人近くが極貧の生活から抜け出した。
だが最貧困層の数が逆に増えた地域もある。サブサハラ(サハラ砂漠以南の)アフリカだ。約2億7600万人(同54.3%)から約3億8900万人(同41.0%)へと1億人超増加した。最貧困層の「割合」は下がっているため、人口爆発が足を引っ張った格好だ。
13年のデータでは世界の最貧困層の50%がサブサハラアフリカで、33%が南アジアで暮らす。また最貧困層の80%は農村に住み、64%が農業従事者、半分が子ども(最貧困層は子だくさん)。最貧困層のほとんどが正規の教育を受けていないという。
■サブサハラは格差拡大
世銀によると、貧困撲滅のカギは「格差の解消」にある。2008年と2013年の所得増加分について各国の「下層40%」と「平均値」を比べたところ、83カ国の6割近い49カ国で所得格差が縮まったことがわかった。だが34カ国では逆に広がっていた。その多くは、先進国とサブサハラアフリカ諸国に集中している。
格差をなくすには政策的な介入が必要、というのが世銀の考えだ。有効な政策として世銀は6つを示す。「乳幼児の栄養を改善すること」「子どもに教育を与えること」「ヘルスケアのアクセスを改善すること」「貧困家庭へ現金給付をすること」「農村のインフラを整備すること」「公正な累進課税を導入すること」だ。いずれも格差是正に近年成功してきたブラジル、カンボジア、マリ、ペルー、タンザニアの5カ国を分析し、導いた処方せんだという。
「正しい政策は、人口、天然資源の有無など、国ごとの事情に関係なく、格差是正に効果がある」と世銀貧困・平等グローバルプラクティスのカルロス・シルヴァ副シニアディレクター・リードエコノミストは話す。
■農村発展に「緑の革命」
今回のセミナーにコメンテーターとして登壇した中野優子・筑波大学准教授(開発経済学)は「農村の発展にはインフラの整備だけではなく、農業分野の研究開発、技術改良も重要だ」と指摘する。成功例として、アジアの「緑の革命」とアフリカの「灌がい農業」を挙げた。
緑の革命とは、アジアで1960年代に、たくさん収穫できるイネの品種を導入したり、化学肥料を投入したりして、農産物の生産性を大幅にアップさせた農業改革だ。これによって増えた収入を子どもの教育費にあて、学校で学んだ子どもたちは農業以外の仕事に就いた。この結果、緑の革命は、農業以外の分野の所得も増やすという好循環を生んだ。
アフリカの灌がい農業では、モザンビークとタンザニアの灌がい地域と天水農業地域を比べると、イネの収穫量が約2倍も違うというデータがある。灌がいへの投資は農村の発展につながる。
世銀の報告書「貧困と繁栄の共有2016」は、150の国でそれぞれ1200世帯の家計を調査し、そのデータをもとに作られたもの。世銀が目標に掲げる「2030年までに最貧困層の割合を世界人口の3%(2013年は10.7%)以下にする」「各国の下層40%の消費、所得を増やす(繁栄の共有)」の2項目の達成状況と課題を分析している。2016年版が初めての発行だった。