ミャンマーの過激な格闘技「ラウェイ」王者の金子大輝選手、6月29日に凱旋試合「本物を知ってほしい」

サンドバッグに後ろ回し蹴りを入れる金子大輝選手サンドバッグに後ろ回し蹴りを入れる金子大輝選手(ミャンマー・ヤンゴンで撮影)

男たちの引き締まった筋肉に、大粒の汗が浮かぶ。パンチや膝蹴りの連打を受け、ずっしりと詰ったサンドバッグは、前後左右に激しく揺れる。打撃のたびにホコリが舞い、天井から漏れる日光を受けてきらめく。シュッと漏れる荒い息、はだしの足がザザッとコンクリートの床を擦る。

ここはミャンマーの最大都市ヤンゴンにある、この国の伝統格闘技ラウェイのジムだ。4月上旬のむせかえるような暑さのなか、ミャンマー人選手に交じって、一人の日本人選手がトレーニングに励んでいた。金子大輝選手(24)、2017年12月には本場ミャンマーのラウェイ大会でチャンピオンに登り詰めた実力者だ。

ラウェイは「世界で一番過激な格闘技」とも呼ばれ、1000年の歴史を誇るミャンマーのキックボクシング。過激といわれる理由は、最小限のルールにある。グローブは使わず、手にはバンテージのみを巻いて殴り合う。頭突き、肘打ちも認められる。判定はなく、KOでなければ勝負はつかない。試合では血しぶきがリングサイドの観客にまで飛ぶことも珍しくないという。

金子選手は2016年2月の初参戦以来、ミャンマーの名門ラウェイジムの門下生として、修行を積んできた。現地での試合数も、日本人で右に出る者はいない。努力の甲斐あって、2017年12月には「AIR KBZゴールデンベルトチャンピオンシップ」で見事、前年の王者テッアウンウー選手を下し、念願のチャンピオンベルトを獲得した。

実は金子選手、最初からラウェイ王者を目指していたわけではない。総合格闘技での活躍を目標に据え、ラウェイはあくまでも通過点に過ぎなかった。しかし、2年間ラウェイを戦ってきた金子選手はこう語る。「これからもずっとラウェイを続けたい。ミャンマーラウェイの金子大輝と呼ばれたい」。心境が変化した理由には、ラウェイの奥深い歴史や伝統があったという。

長年の歴史を誇るラウェイは、民衆に支えられた競技だ。たとえ大会で優勝しても、民衆に「ベルトにふさわしい選手」と認められないと真の意味でのチャンピオンとは認められないという。ラウェイは相手への敬意を重んじる競技であり、試合の後にも、勝ち負けにかかわらず互いを讃え合う。試合の前には伝統的なダンスを踊るのがしきたりだ。

「試合前のダンスもしっかり練習して踊ると、自然とミャンマー人にも認められるようになった」。かつてはツイッターで試合前の宣戦布告を行い、敵意をあらわにすることもあったが、ミャンマー人のコーチに諭され、現在では控えている。そんななか、カレン族の名士が金子選手に赤い民族衣装の上着を贈った。金子選手は毎試合、その上着をリングに上がる際のガウンとしている。カレン族はミャンマーの少数民族だが、ラウェイ選手が多いことで知られる。「あのガウンは宝物」。金子選手が真のチャンピオンとして受け入れられている証拠だろう。

金子選手が次に挑むのが、2018年6月29日に東京・後楽園ホールで開催される「第8回ラウェイ・イン・ジャパン~サムライ~」。ミャンマーを舞台に戦ってきた金子選手にとって、この大会には初参戦。「ほとんどの日本人はラウェイを知らないか、知っていてもその本質は伝わっていない。『本物のラウェイ』を日本の皆さんに知ってほしい」

対戦相手はミャンマー人のベテラン、ジェジンピョー選手。「(金子選手が戦う)67キロ級では最強の選手」と、長年金子さんを指導してきたウィンジンウー氏も真剣な顔つき。金子選手も「ミャンマー人からのプレッシャーを感じる。現地ミャンマーの王者として、絶対に負けられない試合」と決意を見せた。

トレーニング前の準備運動をする金子大輝選手(ミャンマー・ヤンゴンで撮影)

トレーニング前の準備運動をする金子大輝選手(ミャンマー・ヤンゴンで撮影)