灼熱のなか自転車で2時間かけて家庭訪問! 青年海外協力隊員がベナンの低体重児を救う

乳児の体重を測る出野爽香さん。バッグの中に乳児を入れ、自前の吊りはかりを使う。「(ベナンの現地語である)フォン語で話すと、お母さんの警戒心が消え、打ち解けやすくなる」と出野さん

ベナン南部のウィダ市にある保健センターで活動する青年海外協力隊員(職種:助産師)の出野爽香さん(28)。活動の柱は「低栄養体重児に対するフォローシステム」を作ること。「ベナンには子どもの発育への関心が薄い母親が多い。体重を測って、子どもの発育状況を確認することが大切だ」と言う。

■1歳半で体重わずか5キロ

フォローシステムの一環として出野さんが実施するのが、保健センターで予防接種を受ける子どもの体重をついでに測ること。そこで発育不良の乳幼児だとわかった場合、その家庭を訪問。母乳をうまく飲めない乳児への対処法、粉ミルクを与えるタイミングなどについて教える。このほか、フォローの必要な低体重の乳幼児をもつ母親向けに月に一度、栄養管理や離乳食について学んでもらう「母親教室」も開く。

出野さんが低栄養体重児のフォローをやろうと思ったきっかけは、ベナンの生活に慣れてきた2018年の9月、近郊の村へ予防注射を打ちに行った際、年齢の割に体の小さな子どもを見つけたことだ。体重を測ったところ、1歳半で5キログラムほど(日本だと8~13キログラムが目安)しかなかった。この子どもの家に、出野さんは同僚の助産師と一緒に行ったのが最初だ。

出野さんは現在、10世帯を定期的に訪問している。そのひとつが、炎天下のなか自転車で往復2時間かけたところにある。この家では双子の子どもが生まれたが、体重はひとりが1750グラム、もうひとりは1950グラム。日本であれば、2000グラム以下は保育器に預ける体重だ。

双子の乳児を助けるために、出野さんは2018年から、この家庭へ通い始める。最初に訪問したときの体重は、予防接種の際と比べてそれぞれ100グラム、250グラム減っていた。母親の乳房の状態を見たところ、異常なし。母親も「毎日しっかりお乳を与えている」と言う。となると「考えられる原因は、赤ちゃんが小さすぎて、お乳をうまく呑み込めないことだと思った」(出野さん)。

授乳のインターバルは、日本では子どもの状態にあわせて2~4時間おきを推奨している。だがベナンでは適当。そこで出野さんは、母親が忘れにくいように、また母親の生活リズムにあわせられるように、毎食後に欠かさず母乳を絞って与えること、栄養強化として粉ミルクを与えることの2つをアドバイス。粉ミルクの値段は3000CFAフラン(約600円)とベナン人にとっては安くないが、親せきがお金を出しあったという。

出野さんはこの1週間後に再び訪問。体重を測ったところ、母乳と粉ミルクのダブル効果で、乳児の体重は最初の測定値まで戻った。その後、体重は順調に増えていったという。

「定期的に家庭を訪問することで、子どもの状態がそれほど良くないということにお母さんが気付いてくれる。訪問先の周りの家庭にも、自分の子どもの健康状態を考えてもらう良い機会になる」。出野さんは家庭訪問の意義をこう説明する。

■助産師兼フォトグラファーになりたい

ただすべてが上手くいくわけではない。出野さんが予防接種に立ち会わないときは、体重測定が行われないこともある。理由は面倒くさいからだ。「私がいなくなっても、体重測定を続けてもらわなければ意味がない。家庭訪問にも行ってほしい。理解してくれる助産師もいるけど、チームで取り組まなければ効果は出ない」(出野さん)

出野さんが青年協力隊員になろうと思ったのは、助産師として日本で3年働くなかで、アフリカの“みんなで育てる子育て文化”に興味をもったからだ。日本には最新の医療技術があるが、母親の9人に1人が産後うつになる。その理由のひとつにワンオペ育児(1人で仕事、家事、育児をこなさなければならない状態)があるという。「日本とは違う子育て文化を知りたいと思った」と出野さんは振り返る。

協力隊の任期は2年だ。出野さんに残された時間はあと半年。日本に帰った後、出野さんは「助産師フォトグラファーになりたい」と言う。「日本では、産後うつやワンオペ育児などで、子育てのスタートをうまく切れないお母さんが増えている。助産師兼フォトグラファーとして、お母さんと子どもの思いを写真に残したい。写真を後で見返すと、子どもを産んだときの幸せな気持ちを思い返してもらえるから」と話す。

体重の測定値を記入する出野さん

体重の測定値を記入する出野さん

乳児が母乳をうまく吸えないときは搾乳する必要がある。搾乳指導をするのが出野さん

乳児が母乳をうまく吸えないときは搾乳する必要がある。搾乳指導をするのが出野さん