新型コロナで困窮するマニラのスラムの子どもたち、地元NGOが毎日の炊き出しを450食に倍増

プロジェクト・パールの炊き出しを食べに来た子どもたち。新型コロナ対策にマスクを付けている(マニラ市トンドのバランガイ105にあるヘルプセンターで)プロジェクト・パールの炊き出しを食べに来た子どもたち。新型コロナ対策にマスクを付けている(マニラ市トンドのバランガイ105にあるヘルプセンターで)

新型コロナウイルスの感染拡大を阻止するため、3月16日からロックダウン(封鎖)が続くフィリピン・ルソン島。これに伴い親の収入が激減したマニラのスラムの子どもたちへの炊き出しを倍増させた地元のNGOがある。マニラ市トンドで活動するプロジェクト・パールだ。代表を務めるメリッサ・ビラさん(55)は「収入がゼロになった住民もいる。今こそ支援が必要なの」と意気込む。

■肉の煮込みも食べられる

プロジェクト・パールの炊き出しは栄養満点だ。日によってメニューは変わるが、主食のご飯に、ゆでたまご、アドボ(肉と野菜を酢と醤油で煮込むフィリピンの伝統料理)、スープなどがつく。「子どもたちには1日に1回は栄養のあるものを食べてほしい」とビラさんは話す。

炊き出しの時間は毎朝8時から10時半まで。土日も休まない。場所は、トンドのバランガイ(地区)105で同NGOが運営する教育施設「ヘルプセンター」の中だ。バランガイ105は、貧困層が多く暮らすトンドのなかでもスラムとして知られる。

ヘルプセンターは、300人ほどが入れる広さをもつ。イスとテーブルが並び、皿やスプーンも置いてあるため、手ぶらで来ても大丈夫だ。そこに毎朝、2~16歳の子どもが入れ代わり立ち代わりご飯を食べにやってくる。高齢者も5%ほどいる。

バランガイ105には約2万3000人が暮らす。ビラさんは「本当は、バランガイ105の子ども全員に食事を届けたい。(新型コロナでロックダウンとなった後)1回の炊き出しの規模を200食から450食に増やしたけど、それでも足りない。学校が始まっても、子どもたちが笑顔で学校に通えるようにサポートし続けたい」と語る。

■コメ・缶詰・カップヌードル!

プロジェクト・パールの取り組みは炊き出しだけにとどまらない。バランガイ105で暮らす1225の家族に「食料セット」を配った。中身は、10キログラムのコメ、1ダースのツナやコンビーフの缶詰、カップヌードルなど。缶詰は、センチュリー・パシフィック・フード傘下のセンチュリー・ツナから、カップヌードルはRFMからの寄付だという。いずれもフィリピンを代表する大企業だ。

バランガイ105では運悪く4月に入って大きな火事も起きた。450の家族が行き場を失ったという。プロジェクト・パールはホームレスとなった人たちにも食料セットを手渡した。

「こんなときだからこそ、スラムの人たちをよりいっそう支えないと」とビラさんは言う。

■ごみに紛れた食べ残しを売る

バランガイ105には、マニラ首都圏から運ばれるごみの投棄場がある。住民の多くはスカベンジャー(ごみを漁って生計を立てる人たち)だ。主な収入源は、ごみの中にある「プラスチック」と「食べ残し」だ。

プラスチックのトレーやパックはリサイクル業者に売る。1キログラム15ペソ(約32円)で引き取ってもらえる。

食べ残しは再調理して売る。ファストフード店から出た骨つきチキンなどをごみの中から拾い出し、家に帰って煮込んだりして“リサイクル”する。こうした出来上がった料理をタガログ語で「パグパグ」(振り落とすという意味)と呼ぶ。パグパグは1食20〜30ペソ(約42〜63円)の値段がつく。

パグパグを買うのは、同じバランガイ105の住民だ。買う人は、ごみの中から拾ってきた食べ物であることを知っている。売る人も自ら食べる。だがもちろん体に良いわけはない。パグパグの危険性についてフィリピンの国家貧困対策委員会は、A型肝炎や腸チフス、下痢、コレラになると忠告する。

しかしプロジェクト・パールのメンバーのひとり、ディバイン・デゴラションさんは言う。

「ここに住む人たちは、それが体に良いかどうかなんて気にしている余裕はない。下痢を起こす人もいるけれど、彼らにほかの食べ物を買うお金はない」

■ごみがなければ収入なし

バランガイ105の住民の1日の収入は、ロックダウンが始まる前で150~250ペソ(約317~約529円)だった。これはマニラ首都圏の最低賃金(1日)である537ペソ(約1136円)の3分の1ほどだ。

もともと収入が少ないうえに、ロックダウンを受け、搬入されるごみの量が激減した。「多くのショッピングモール、レストランが閉まったの。だからプラスチックのごみや食べ残しが投棄場に入ってこない。収入がゼロになって、生活できなくなったスカベンジャーもたくさんいる」(ビラさん)

フィリピン政府が実施中のロックダウン政策の柱は「全家庭の自宅隔離」「交通機関の停止」「必要不可欠な食料・医療サービスのみの継続」。ロックダウンはこれまでに3回延長され、マニラ首都圏、ラグナ州、セブ州の一部では5月31日まで続く予定だ。

プロジェクト・パールが炊き出しで配った朝食。この日のメインは、ご飯にかぼちゃの煮物とゆで卵をのせたもの

プロジェクト・パールが炊き出しで配った朝食。この日のメインは、ご飯にかぼちゃの煮物とゆで卵をのせたもの