ベラルーシにある「カップごと食べるスープ」の店、エコブームに乗れず人気に陰り

「スープカルチャー」のカップごと食べられるチーズクリームスープ(筆者撮影)。この店のスープは、ベジタリアン志向のヘルシーさが特徴。にんじん、じゃがいも、たまねぎ、かぼちゃ、トマトなどベラルーシ産の旬の野菜を入れ、肉や卵は使わない。一部のスープを除き、バターの代わりに植物油や植物性の生クリームを使うこだわりようだ。じっくり煮込んだ野菜をすべてミキサーでつぶしてあるため、口当たりもなめらか。スプーンを使わずに飲める「スープカルチャー」のカップごと食べられるチーズクリームスープ(筆者撮影)。この店のスープは、ベジタリアン志向のヘルシーさが特徴。にんじん、じゃがいも、たまねぎ、かぼちゃ、トマトなどベラルーシ産の旬の野菜を入れ、肉や卵は使わない。一部のスープを除き、バターの代わりに植物油や植物性の生クリームを使うこだわりようだ。じっくり煮込んだ野菜をすべてミキサーでつぶしてあるため、口当たりもなめらか。スプーンを使わずに飲める

ベラルーシの首都ミンスクに、「食べられるカップ」にスープを入れて売るテイクアウトスープの専門店がある。店名は「スープカルチャー」。ウクライナ発のこの店はオープンした3年前、そのユニークな発想が受け、ウェブメディアに取り上げられるなど、話題になった。ところが今、その人気は下火となっている。

もちっとした食感

スープカルチャーはベラルーシに上陸して以来、出店攻勢を続けてきた。ピーク時(2018年ごろ)の店舗数はミンスク市内に4店舗。ところが今残っているのは1号店のみ。昼食時でも客の数はまばらだ。

この1号店は、ミンスク市内の目抜き通りに近い「コズロバ通り」に建つ。店舗の広さは、わずか15平方メートル。客が3~4人入れるスペースと注文カウンター、そしてカウンター越しに置かれた4つのスープポットがあるだけだ。こじんまりとしたコーヒースタンドのような感じ。中で飲食できるスペースはない。

この店の売りの食べられるカップは、やや細長いコップ型をしている。小麦粉、水、植物油、ターメリックなどのスパイス、亜麻とひまわりの種を混ぜ、型に入れて焼き固めたものだ。穀物パンのような香ばしさがあり、食感はややもちっとしている。

この食べられるカップはスープカルチャーのオリジナル。ベラルーシでは他に見ない。アイスクリームのコーンのように、手に持って、歩きながら食べられる。最低20分はスープが湿ってくることはないという。

メニューは「チーズ」「マッシュルーム」「レンズ豆(またはメキシカン)」の3種類のクリームスープと日替わりスープの4つ。日替わりスープは20種類以上もあり、夏場にはガスパッチョのような冷製スープも登場する。

スープは1つ430グラム。小腹がすいた時にちょうど良い量だ。値段は5.5~6ルーブル(230~250円)と、ビッグマックの5.2ルーブル(約220円)よりやや高い。

「忙しい時でも、手軽にヘルシーな食事をとれるように」「環境と体に優しいものだけを」。これは、スープカルチャーの経営者であるアクサーナ・ボルコさんが1号店がオープンする前に、ベラルーシの地域情報サイト「ザ・ビレッジ 」の特集記事で語った言葉だ。

ベラルーシでは近年、エコ製品やエコパッケージがトレンドになりつつある。この食べられるカップも、ごみを出さない、使い捨て容器を使わないという「サスティナブル」な考えのもとに生まれた商品だった。

スープは病院食!

にもかかわらず、カップごと食べるスープはベラルーシ人に受けなかった。

1つ目の理由として挙げられるのが、ストリートフードとしての認知度の低さだ。

ベラルーシでストリートフードと言えば、シャワルマ(ケバプサンド)が圧倒的な人気を誇る。ミンスクの街中では、シャワルマをほおばりながら歩く人をよく見かける。

特に、人通りの多い地下鉄駅や市場周辺にシャワルマの店が目立つ。人気の店には行列ができるほどで、30分ぐらい待つことも。シャワルマをよく買うという30代の運転手の男性は「手軽だし、おいしい。忙しい時に便利なんだ」と笑顔で話す。

対照的にベラルーシではスープは、日本の味噌汁のように毎日決まって食べるものではない。病気やダイエットの時に食べるものという認識が強い。「体調がすぐれない時、鶏のブイヨンスープは最高の薬」と大学院生のユーリヤ・ヴィテンアモスさんは話す。鶏のブイヨンスープは、ベラルーシの病院食の定番だ。

2つ目の理由は、ベラルーシではスープはあまり人気がないからだ。

ヴィテンアモスさんは「ベラルーシ人はスープをあまり飲まない」と語る。スープはメインの料理を作って余った材料で作るもの。あってもなくてもいいという位置づけ。そのため、お祝いの席や、来客があった時、スープを出すことはないという。

スープカルチャーの発祥地であるウクライナには、ウクライナ料理を代表する「ボルシチ」(ビートを使った鮮やかな深紅色をした煮込みスープ)やソリャンカ(ピクルス、オリーブ、ケッパー、肉や魚の燻製などを煮込んだスープ)がある。

ベラルーシでもボルシチは食べるが、あくまで余った野菜を効率よく使い切るために作るもの。ヴィテンアモスさんは「母は、第二次世界大戦後の貧しい時期を生きた祖母に、食べ物を粗末にしないようにと教え込まれて育った」と話す。ヴィテンアモスさんの母親は今でもよくスープを作るという。

「年配の人たちにとってスープは何よりの健康食。スープは作るのに時間がかかるし、面倒くさがりだから私はあまりスープを作らない」(ヴィテンアモスさん)

エコのトレンドも、ベラルーシ人の食文化の壁を乗り越えるまでにはまだ時間がかかりそうだ。