「開発協力大綱」の改定案にNGOが懸念、ドローンが軍事目的で使われる?

10月17~20日に鹿児島県と熊本県の陸上自衛隊駐屯地で実施されたフィリピン陸軍に対する能力構築支援のようす(防衛省のホームページから引用)10月17~20日に鹿児島県と熊本県の陸上自衛隊駐屯地で実施されたフィリピン陸軍に対する能力構築支援のようす(防衛省のホームページから引用)

日本の政府開発援助(ODA)の指針となる「開発協力大綱」の改定をめぐり、ODAが軍事利用につながるとの懸念がNGOの間で広がっている。懸念材料のひとつは、災害時の人命救助に必要な機材やスキルを相手国の軍に提供する「人道支援・災害救援」。日本国際ボランティアセンター(JVC)の今井高樹代表理事は「軍には機密がある。渡した物が日ごろどう使われているのかをチェックするのは難しい」と警鐘を鳴らす。

人権侵害への加担にならないか

軍事利用がとくに懸念されるのは、人道支援・災害救援の分野。具体的には、被災者の捜索や救助に使うドローンや油圧ショベルなどをODAで渡す「機材供与」と自衛隊が相手国の軍に機材の使い方を教える「能力構築支援」の2つを組み合わせる場合だ。

今井さんは「たとえば渡した重機が軍の施設を建てるのに使われるかもしれない。渡す物は災害救援目的だとしても、自衛隊が使い方を教えることで、防衛省サイドから見れば軍事協力になる」と指摘する。

この方法で援助した初めての国がフィリピンだ。2021年10月、自衛隊が使うのと同じ人命救助機材をODAで供与した。倒壊した建物の中から被災者を助けるための電動油圧装置や音響探査装置、津波やゲリラ豪雨のときに使うボートやライフジャケットなどだ。翌月には自衛隊がマニラ首都圏のタギッグ市を訪問。供与した機材の使い方をフィリピン軍に教えた。

フィリピン軍に対する能力構築支援は2022年10月にもあった。鹿児島県霧島市と熊本県熊本市の陸上自衛隊国分駐屯地に、フィリピン陸軍の隊員17人を招いた。使い方を教えたのは、行方不明者を探すドローンや仮設の橋を架ける装備、火山が噴火して救援に向かう際に着る防護服などだ。

フィリピン軍は、前ドゥテルテ政権下で大規模な人権侵害への加担が指摘されている。現地の人権団体カラパタンによると、2016年7月~2021年12月に超法規的に殺害されたのは427人、不当に逮捕されたのは3968人。今井さんは「この状況を見れば、フィリピン軍を支援するのはとても危ないことだとわかる」と訴える。

「中立」が日本人の安全につながる

今井さんが軍の支援に反対する理由は、災害救援のために渡した機材を軍が日ごろどう使っているのか把握するのが難しいことだ。10月17日に国会内で開かれたNGOと外務省の意見交換会では「相手に軍事機密と言われれば、それ以上踏み込んでチェックするのは難しい。日本政府はモニタリングしきれないのではないか」と指摘した。

これに対し、外務省国際協力局の上田肇政策課長は「相手国の軍はわれわれと協力関係にあるのだから、しっかりと責任をもって説明してもらう。しかもわれわれがやりとりするのは軍ではなく、先方政府の開発協力政策を担当する機関。先方政府の中で必要な手続きをしっかりと踏んだうえでの報告だ」と回答。今井さんは「先方政府が『実は軍事目的で使っています』と言うことはあり得ない」と心配を募らせる。

ODAには「軍事的用途および国際紛争助長への使用を回避する」という原則がある。政府はこの原則を開発協力大綱の改定案にも引き継ぐ方針だ。

とはいえ今井さんが懸念するのは、この原則が徐々に緩められていくことだ。2015年には民生や災害救助など非軍事目的に限り、軍や軍関係者への援助が認められた。今回の改定にあたっては「自由で開かれたインド太平洋」の理念を推進することが前面に打ち出された。「自由で開かれたインド太平洋」は対中国包囲網の性格をもつ。

「平和主義は、憲法にも掲げられた日本の財産。日本が中立な立場だからこそ、日本のNGOが海外で活動するときも、現地の人たちに受け入れられる。軍や軍関係者には一切援助すべきではない」。今井さんはこう力を込める。