
400円集められないと体罰
ドラゴンの18歳以下のチームでひときわ激しいタックルをする選手がいる。セネガル中部の都市カオラック出身のダムだ。才能豊かなダムはセネガルのユース代表のひとり。夢はプロラグビー選手になることだ。
ダムのこれまでの人生は、受け入れセンターにやってくる子どもの典型例だ。幼いころに、カオラックにあるダーラ(コーラン学校)に預けられた。だがそこで求められたのはコーランの勉強ではなく物乞いだった。
「朝から晩まで物乞いを強いられた。1日1500CFAフラン(約370円)集められなかったら、鞭で叩かれたり、晩ご飯を与えられなかったりした」(ダム)
厳しい体罰に耐えかねたダムはダーラから逃げ出し、仕事を求めて200キロメートル離れたダカールへやってきた。
だがダカールに頼れる知り合いはいない。ストリートチルドレンとなって物乞いをし、毎日をやり過ごすので精一杯だった。
そうしたころ出会ったのがビラージ・ピロットのスタッフだ。ダムは10歳の時、ビラージ・ピロットに保護され、受け入れセンターにやってきた。
入った当初は共同生活に戸惑ったものの、少しずつ生活にも慣れ、友だちもできた。今はラグビーをしながらレンガを作ったり、壁を塗ったりする仕事のやり方を学んでいる。17歳になって就職先が見つかり次第、受け入れセンターを卒業する予定だ。
ダムが実家に帰れないのは、家族が貧しいからだ。両親は現在、セネガルの隣国ガンビアで出稼ぎをしている。ダムが家族に会えるのは、ラマダン(断食月)が終わった後や犠牲祭といったイスラム教の祭日くらい。
これまでの長い間、家族と離れ離れだったダム。だからこそプロラグビー選手になり、家族一緒に生活するという願いは強い。
「家族のことを思わない日はない。将来は世界的なラグビー選手になって、両親やきょうだいに楽をさせたい」
ダムはこう前を向く。(敬称略、続く)

相手からボールを奪うダム。ドラゴンのユースチームのキャプテンも務める

ボールを掲げる子ども。2025年に日本のラグビーリーグ「リーグワン」で2連覇をした東芝ブレイブルーパスからラグビーボールが寄付されていた