「21世紀を女性の世紀に」、第68回国連総会で事務総長が演説

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国連の潘基文(パンギムン)事務総長は9月24日、米ニューヨークの国連総会で演説した。以下、要約。全文は日本語翻訳版で約5700字。

■MDGs

驚くべき機会が訪れています。私たちの世代は初めて、地球上から貧困を消し去ることができるからです。しかし、その一方で職のない若者、気候の温暖化、未解決の紛争など、人々と地球に対する圧力も高まっています。

古い時代に合わせて作られた機構や制度が、21世紀の目まぐるしい状況の変化についてゆけないことも多くあります。

世界中の街頭や広場で、人々は権力の座にある者たちに圧力をかけています。人々は世界の指導者である皆様に対し、その声に耳を傾けるよう求めています。

過去10年以上にわたり、2015年末は、私たちの長期的な目標(ミレニアム開発目標=MDGs)の達成期限となってきました。かつて遠い将来に見えたこの時期が、すぐそこまで近づいています。

それは、私たちが新たな開発アジェンダを採択することになる年でもあります。2015年は歴史的な機会なのです。

MDGsは人々の心を捉え、目覚ましい進展を生むとともに、開発自体に対する疑念を払拭しました。しかし、いくつかの目標の達成に向けた前進は、大幅に遅れています。不平等は拡大しています。農地から工場に至るまでの職場で、あまりにも多くの人々が搾取を受けています。

新しい開発アジェンダは、MDGsと同じ意欲を掻き立て、かつ、これをさらに進めるものとせねばなりません。

また、貧困の終焉を最優先課題に、持続可能な開発をその核心に、ガバナンスを両者の橋渡し役に据えた、普遍的なものとしなければなりません。たった1組の目標で、このことを表現せねばならないのです。

持続可能な開発の3つの側面に優劣をつけるべきではありません。「経済」成長が確保できたからといって、「環境」や「社会」的正義を後回しにすることはできないのです。

女性のエンパワーメントと権利は、私たちのあらゆる活動の中心に据えなければなりません。その根拠は単純です。女児が元気に学校に通い、女性が法的枠組みと金融へのアクセスによる支援を受け、女性の暮らしから暴力と差別が消えれば、国家が繁栄するからです。

21世紀を女性の世紀としようではありませんか。

成功を収めるためには、民間による取り組みの強化も必要です。企業は自由にその最も大きな力、すなわち雇用の創出とイノベーションの力を発揮できなければなりません。

国連はビジネス界や金融界だけでなく、市民社会や慈善団体との協力を進めるための手段をさらに充実させなければなりません。

気候変動の影響により、開発のあらゆる成果が危機に瀕しています。最初に被害を受け、最大の代償を支払うことになる最も貧しく、弱い立場に置かれた人々は、気候変動についても正義の拡大を求めています。

気候変動の脅威はチャンスでもあります。それは私たちの暮らし方や都市計画、私たちの交通手段や家屋、工場へのエネルギー供給のあり方を変えるチャンスです。

MDGsの達成に向けてラストスパートをかけ、エネルギーと気候の問題に関する新しい方向性を打ち出し、意欲を掻き立てる新たな開発枠組みを作り上げようではありませんか。脱落者を作ってはならないのです。

■シリア

世界で最大の平和と安全上の「課題」となっているシリア危機へと、話を移したいと思います。

10万人以上が命を失い、総人口の3分の1に相当する700万人以上が避難を強いられています。私たちは過去四半世紀で最悪の化学兵器による民間人攻撃を目にしました。

失われた世代の若者たちが難民キャンプにあふれています。これらの若者たちや彼らの母親・父親が国際社会に見放されたと感じていたとしても、私たちの中にそれを責められる人がいるでしょうか。私たちは、審判を受ける局面にあるのです。

シリア政府は、化学兵器禁止条約への加入によって引き受けた義務を全面的かつ早急に果たさなければなりません。

国連調査ミッションはシリアでの化学兵器使用をはっきりと確認しました。国際社会はその実行犯を裁きにかけなければなりません。また、国際社会は同じ決意を持って、シリアの化学兵器の備蓄と開発プログラムの凍結、廃棄を確保しなければなりません。

しかし、私たちは化学兵器の廃棄で満足してはなりません。シリア全土が依然として戦火に包まれているからです。殺害や残虐行為の大半は、通常兵器により行われています。

私はすべての国に対し、流血を助長するのをやめ、あらゆる当事者への武器の流れを断つよう訴えます。また、シリア政府と反体制派に対し、国際人道・人権法に基づく義務を守るよう呼びかけます。

両当事者は人道援助に対するあらゆる障害を除去するとともに、医療施設と職員を標的とする卑怯な行為を止めなければなりません。また、国際法上の根拠がないまま拘束されている男女と子どもを釈放しなければなりません。

国際刑事裁判所への付託その他、国際法に沿った手段により、重大な国際犯罪の責任を徹底的に問うことも欠かせません。

化学兵器の使用という凶悪犯罪への対応により、外交的な弾みがつき、これまで長く待たれていた団結に向けた兆候がようやく見えてきました。今こそこれを土台にして、当事者を交渉の席に着かせなければなりません。

私はシリア政府と反体制派、そして、この議場の中で両当事者に対する影響力をお持ちの皆様全員に対し、ジュネーブⅡ会議をできるだけ早く実現するよう訴えたいと思います。

■中東とアフリカ

私は、イスラエル・パレスチナ間の直接交渉再開と、これを可能にした大胆な外交を歓迎します。私たちが本気で2国家共存という解決策の実現を目指すのであれば、チャンスはあっという間に費えることも心しておかねばなりません。

中東や北アフリカに加え、アフリカ諸国も、民主主義と持続的な高度経済成長を伴う躍動の新時代へと足を踏み入れています。

ソマリアでの政治的進展、マリでの民主的選挙、コンゴ民主共和国での平和維持活動強化、大湖地域での新たな枠組み合意など、前進に向けたお膳立ては整っています。

とはいえ、サヘル地域は依然として困窮状態にあり、情勢不安が続いています。中央アフリカ共和国では治安が急激に悪化しています。数百万人があらゆる援助を断たれ、略奪の餌食となる危険にさらされています。にもかかわらず、シリアの場合と同様、これらの国々に対する援助アピールについても、まったく不十分な資金しか集まっていません。

この1週間だけを見ても、ケニアやイラク、パキスタンで起きたショッキングな襲撃事件は、テロリストにどれだけ大きな苦痛と被害をもたらす力があるかを私たちに見せつける結果となりました。

世界各地で、私たちは人権と法の支配が安定と共存の基礎であることを改めて認識しています。

■国連システム

加盟国と国連が大規模な人権侵害を予防、停止できていないことで、悲惨な結果が生まれています。

スリランカ終戦時における国連の活動に関する内部審査では、組織的な破綻が明らかになりました。加盟国は、国連システムに対し、自ら定めた任務遂行に見合う支援を提供しなかったばかりか、残念なことにシステム自体も、適切な適応や全面的な任務遂行ができなかったのです。

ウィーン世界人権会議20周年にあたる今年、私たちは国連創立時の原則を守る決意を新たにすべきです。また、国連システムが憲章に基づく責任を全うできるようにするための提言も実施に移しているところです。

私たちが武器であふれた世界と対峙しない限り、平和も人権の享受もほとんど達成できないでしょう。昨年は武器貿易条約の採択によって、通常兵器の国際的移転がようやく規制されるという幸先のよい動きが見られました。

しかし、核軍縮は棚上げ状態となっており、兵器の拡散が続いています。包括的核実験禁止条約は未発効のうえ、小型武器による殺傷も後を絶ちません。

しかも、人間のニーズ充足が急務となっている時に、軍事費は理不尽な水準に高止まりしています。課題の優先度を是正し、数十億ドルを武器に浪費する代わりに、人間に投資しようではありませんか。

指導者である皆様は「われら人民」に奉仕する立場にあります。

すべての人にとって、よりよい世界を築こうではありませんか。そして、誰もが調和の中で、平和に尊厳を持って暮らせる未来をつくっていこうではありませんか。