ポストMDGs策定でJANICが問題提起、きょうからロンドンで第2回会合

ポストMDGs(ミレニアム開発目標)について話し合う「ポスト2015年開発目標に関するハイレベルパネル第2回会合」が10月31日、英国ロンドンで始まった。11月2日までの3日間の日程。日本からは、パネルメンバーとして菅直人前首相が出席する。

このハイレベルパネルは、国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長のイニシアティブで2012年7月に立ち上がったもの。MDGsの期限は2015年であるため、16年以降に国際社会が掲げる共通の開発目標について議論する。第2回会合では、家計レベルでの貧困克服をテーマにパネリストらは意見交換する。

会合に先立ち、日本の国際協力NGOで構成するネットワーク団体「国際協力NGOセンター」(JANIC)は10月26日、現在のMDGsについての認識・評価とポストMDGsの枠組み作りについて意見を表明した。以下、概要。

1. MDGsの認識と評価

【全般】
1-1. 政治リーダーから開発援助の実務者、市民社会にまで、MDGsを「開発全体の共通目標」と認識させ、意識変化や行動変容をもたらしたことは高く評価する。

ただし、以下のような課題もあると認識する。

a. 一部の専門家によるトップダウンで決定されるなど、策定方法や目標設定に透明性や正統性が欠けていた点。

b. 人権保障の観点が十分でなく、最も貧しい人たちの権利を守ることで貧困を改善するといった直接アプローチができていない点。

c. それゆえ、農地改革の未徹底やスラム居住権の未確立など、貧困層が直面する人権問題に正面から取り組んでいない点。

【MDGsの目標 1:極度の貧困と飢餓の撲滅】

1-2. 1990年に比べて貧困を半減するとの目標を達成する見込みだが、以下の問題点があると認識する。

a. 国連が発表する飢餓人口は、1990年に比べて実数で減少していない点。

b. 目標達成は主に中国の経済成長による成果であり、サハラ以南(サブサハラ)アフリカと南アジアでは大きな改善が見られていない点。

c. 成果をあげたとされる中国でも、環境への負荷が大きく、貧困削減の成果は一時的なものになりかねない、との指摘がある点。

d. 多くの国で貧富の格差が拡大している点。

e. 目標に対する具体策に欠け、上記の問題の原因となっている点。たとえば「菅コミットメント」では、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)や母子保健支援モデルなどの「保健医療」と、基礎教育支援モデルをはじめとする「教育分野」で具体的な貢献が明記されている一方で、貧困問題への具体的対策や支援はみられない。

【MDGsの目標 8:開発のためのグローバル・パートナーシップの推進】

1-3. 先進国が取り組むべき目標の多くが未達成。特にODA(政府開発援助)の拠出額を国民総所得(GNI)の0.7%にする目標は、DAC(開発援助委員会) 加盟国平均で 0.3%前後にとどまった。途上国の不信を増大させ、また大きく改善する兆しが見えないことは遺憾。

特に日本は、ODAの拠出額を2000年以降削減し続けてきた。GNI 比の拠出額は0.18%(2011年)と、DAC加盟23カ国中21位。これは、経済大国・日本が果たすべき国際的な責任からみて著しい問題。

2.ポスト MDGs の枠組み作りに向けた意見表明

2-1. 現行のMDGsやこれまでにDAC諸国が行ってきたさまざまな国際的コミットメントを今後も守るべき、というのを最低ラインとすべき。新興ドナーに配慮するあまり、伝統的ドナーのこれまでのコミットメントが疎かにされてはならない。

2-2. ポストMDGsでは「人権に基づくアプローチ(RBA)」をあらゆる分野の原則とすること。

2-3. 説明責任や透明性に対する明確な目標・指標を設け、達成に向けて各国政府が説明責任を十分に果たすこと。

2-4. 目標値の設定を巡って「各国の事情に合わせた個別の取り組みを強調する」という主張がみられるが、これを各国が目標を達成できない言い訳に使わないよう、モニタリング・メカニズムを設けること。

2-5. 現行のMDGsの中核目標である「極度の貧困と飢餓の撲滅」のために、農地改革、貧困層向け雇用保障、生活保障など生存権の確立策を具体的に盛り込み、支援すること。特に、次代を担う若年層や、雇用の機会を制限されがちな障がい者などの社会的弱者に配慮すべき。

2-6. 環境の持続可能性と経済開発とのバランスに配慮した目標を設定すべき。地球温暖化防止のために原子力エネルギーの利用を推進することは、真の持続可能性に反する行動であると認識すべき。福島第一原子力発電所の事故を経験した日本は、国際社会で率先して、脱原発と自然エネルギーへの転換を推進すべきで、それをポストMDGsの目標として強く打ち出すべき。

2-7. ポストMDGsの枠組みと、援助効果に関するパリ宣言と釜山閣僚級会合から生まれたGPEDC(効果的な開発協力に関するグローバル・パートナーシップ)、国連持続可能な開発会議(リオ+20)で策定が決まったSDGs(持続可能な開発目標)との関係を明確にすること。

2-8. ポストMDGsの策定プロセスで、国連と各国政府が市民社会との対話を不可欠な軸とし、その結果を踏まえて、人々の視点から各目標を策定するよう最大限努力すること。