増える欧州への密航者、最終目的地は‥‥

さぽうと21理事の山田寛氏(左)、 AARプログラムマネジャーの五十嵐豪氏

認定NPO法人難民を助ける会(AAR)は7月10日、地中海の密航船に関する現地調査報告会を都内で開催した。イタリアやギリシャなどで調査したメンバーが、密航船や難民の現状、受け入れ態勢などについて報告。アフリカや中東から地中海を渡ってくる密航者に、関係国の負担が増す中で欧州全体としてまだ解決策を見いだせていないことなどが分かったという。

AARと姉妹団体のさぽうと21のメンバーで構成するチームは6月下旬、イタリアとギリシャ、ベルギーで調査を実施した。シリアやアフガニスタン、エリトリア、ソマリアなどから欧州への密航が増えている実情を踏まえ、どのような支援が可能かを探る狙いもあった。

AARによると、中東やアフリカから欧州に多くの人が向かう理由は、紛争・戦争からの避難、より豊かな暮らしの追求、欧州にいる家族との再会など様々だという。背景には、アラブの春以降、シリア紛争やリビア内乱などこの地域で続く不安定な情勢がある。

イタリアとギリシャを調査したAARプログラムマネジャーの五十嵐豪氏は、密航者が最終的に目指しているのは、スウェーデンなどのスカンジナビア諸国やドイツと説明。これらの国は、手厚い保護が受けられると密航者の間で考えられているためだという。一方で、欧州では、難民申請ができる国を1つに限定するダブリン協定が1997年に発効しており、最初に到着した国での申請が義務化されている。そのため密航者は最初に上陸するイタリアやギリシャでは難民申請をせずに、なんとかしてスカンジナビア諸国などを目指すという。

密航者は、出発地によって異なるが、費用としてブローカーに数千~1万ユーロ(約14万~140万円)を支払っているようだ。ブローカー間のネットワークで密航者を誘導し、“パッケージ旅行”のように計画されている。ただ、拿捕される密航船を操縦するのは雇われ船長のため、ブローカー自身を逮捕するのは難しいのが現状だ。

五十嵐氏が訪れた、トルコ国境から6キロ沖に位置するギリシャのレスボス島では、1日に200〜300人の密航者が上陸する。観光地であるこの島では、観光客離れを懸念する声もあり、住民が街の外れに密航者の一時的な休息場所を提供しているケースもある。だが住民が密航者を車で送り届けると、その行為が人身売買や密航ほう助と見なされてしまうという。一方、イタリアでは住民が食糧や服を寄付し、ボランティアが保護施設の運営を行っている場所もある。

ギリシャの別の島、コス島を視察したさぽうと21理事の山田寛氏は、「定員オーバーの小型ボートで密航し、(追い返そうとする)警備隊の船舶が近づいてきたら、ボートをわざと沈没させて助けざるを得ない状況にさせる」事例があったことを紹介。また島では密航者が増えすぎたため、警察での登録作業などが滞るなど、当局の対応が追いついていないという。

密航者の問題に対応するのは、欧州連合(EU)の国境管理を調整するEU専門機関、欧州対外国境管理協力機関(FRONTEX)だ。FRONTEXはEU加盟国と協力し、密航者の捜索と救助、上陸した密航者の登録と健康チェック、第1次保護施設への移送、庇護を求めるかの確認、一時上陸許可・難民申請、第2次保護施設への移送などを手掛けている。その後の再移転や再定住の配分についてはまだ結論が出ておらず、EU内で議論が続いている。

山田氏は、アフリカや中東などにいる密航者予備軍は多いものの、地中海に面する欧州諸国は元々移民に寛容なため、ボランティアやNGOが密航者への対応や支援に協力的だと説明。その上で、日本のNGOは人道支援を行うギリシャのNGOへのサポートや、密航者の出発国に対する支援を考えるべきだと指摘した。また、日本政府への提案として、密航船の課題について関心を持ち続けること、ギリシャにこの分野での経済支援を検討することのほか、難民認定された人々を「第3国定住」で日本が少人数でも受け入れるなどを挙げた。

0803米山さん

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2015年上半期に欧州へ渡った密航者は13万7000人で、渡航中に死亡または行方不明になったのは1850人に上る。トルコからギリシャへの密航者が増えて6万8000人となり、これまで流入ルートとして一番多かった北アフリカからイタリアに入った6万7500人を上回り、流入ルートにも変化が起こっている。