「テロのリスク」か「人道支援」か、難民への対応で揺れるマケドニア

マケドニアの首都スコピエの市街地マケドニアの首都スコピエの市街地

バルカン半島に位置するマケドニアに、中東から難民が流入している。ドイツなどに向かう中継点となるからだ。押し寄せる難民を受け入れるべきか、また受け入れは可能なのか、マケドニアは今、「人道」と「テロの脅威」の狭間で揺れている。現地からレポートする。

■ISメンバーが紛れている

マケドニアが難民を受け入れるかどうかについて、首都スコピエの中学校で音楽を教えるアレキサンダー・ドジュシノブスキーさんは「シリアやイラクの出身者の中には、難民を装って欧州に入ろうとする『イスラム国(IS)』のメンバーが紛れている可能性が高い。女性や子どもの受け入れは必要だが、若くて健康的な男性の受け入れは、この国にテロの脅威をもたらすのではないか」と懸念する。

マケドニアには外国人戦闘員としてISに参加した者が多数帰還しているといわれる。フランス・パリで2015年11月に死者130人を出したテロ事件が起きたこともあって、マケドニア国民のテロに対する警戒心は強い。

アレキサンダーさんは「中東諸国の今後を考えても、若者が国外に流れてしまうと国の再建がより難しくなるのではないか。国際社会がやるべきことは、難民を国外に逃がすのではなく、安心して暮らせる場所を国内に作ることだ」と話す。

■難民には同情するが‥‥

難民の受け入れは現実的に難しいとの意見もある。スコピエ市内でグラフィックデザイナーとして働くクリスティーナ・スパスヴスカさんは「経済的な苦境によって自国を離れた難民・移民の状況は理解できるし、同情はする。だが彼ら全員を他国まで届ける国力はマケドニアにはない」とため息まじりに答える。マケドニアは途上国ではないが、1人当たりの国内総生産(GDP)はおよそ5000ドル(約60万円)と日本の7分の1だ。人口はわずか200万人超だ。

マケドニア政府は現在、難民の受け入れを、シリア、アフガニスタン、イラクの出身者に限定している。イランやパキスタン、モロッコなどからやってきた難民・移民は「戦争で破壊されていない」との理由で受け入れを拒否している状態だ。

現地メディアによると、すでに1000人以上がマケドニアとの国境にあるギリシャのイドメニ村で足止めされている。マケドニアへの入国を拒否されたため、自らの唇を縫い合わせて「無言の抵抗」を続けたり、寒空のもと上半身の衣服を脱ぎ捨て、額や胸に抗議の文字を書き入れ警察隊の前に座ったりする難民も出てきた。難民とマケドニア政府の間で緊張状態は続く。

■年初の4日間で7500人が流入

こうしたマケドニア政府の対応に対し、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「新たな人道問題」として警告を発した。未曾有の難民流入を受け、混乱に陥った欧州。マケドニアは、難民の受け入れについてどんな決断を下すのか、難しい局面を迎えている。

国際移住機関(IOM)は、マケドニアには2016年1月1~4日だけで、シリア、アフガニスタン、イラクから7501人の移民・難民が入ったと報告する。内訳はシリア3016人、アフガニスタン2493人、イラク1992人。

欧州連合(EU)の統計機関ユーロスタットによると、2015年に欧州に亡命した人の数は94万2400人以上。このうちギリシャにたどり着いたのは80万人を超える。この多くは、マケドニアなどの国を通過して、ドイツなどを目指す。