「環境教育はとても大切だ」。これは、私が暮らすボリビア南部のタリハの小・中・高校に行くと、教師が決まって発する言葉だ。環境教育をミッションとする青年海外協力隊員(私のこと)にとっては嬉しい限り。だが、活動が順調に進むと思いきや、問題はそう単純ではないのが難しいところだ。
■広がる「母なる大地」の精神
日本では記録的な大雪が降ったとニュースで知ったが、ここタリハでも異常気象は深刻だ。タリハ県教育事務所で働く同僚ロベルトさんは「8年前は夏・雨期(12~5月)でも最高気温が30度以下と涼しかった。また夕方5時ごろからは1時間ぐらいにわたって雨が降っていた」と話す。
ところが最近は違うという。「暑い。夏場だと日中は35度くらいになる日もある。また雨期なのに、雨が降る時間もバラバラだ」。体感できるレベルで気候変動が起きていることもあって、タリハの人たちの環境意識は意外にも低くない。環境教育の必要性もわかってくれているように私は思う。
実はボリビアの先住民の間ではもともと、自然を崇拝する考え方がある。それを表すのが「マドレ・ティエラ」(母なる大地)という言葉だ。アイマラ族出身のエボ・モラレス大統領は就任時の2006年から、マドレ・ティエラという言葉を繰り返し使い、「ボリビアの科学はこれから発展していくだろう。だがマドレ・ティエラを同時に重視しなければならない」と強く訴えてきた。
モラレス大統領が誕生した当時、先住民の割合が少ないタリハの人たちは「マドレ・ティエラ?大統領は先住民の支持を得たいだけだろう」と嫌悪感を覚えていた。ところが近年の気候変動も重なって、タリハでもマドレ・ティエラの精神に同調する人が最近になって増えてきている。
■リサイクル工作が学校でブーム!
環境教育ということであれば、モラレス大統領は、教育改革にも力を入れている。ボリビアには、日本の「総合的な学習の時間」のようなものがあり、その時間を使って、環境を守る活動はなぜ重要なのか、について児童・生徒らは学ぶ。各県の教育事務所は、各校のプログラムをチェックし、新しい指導法の普及を進めている。
2013年12月にはボリビア全土で、新しい教育法を教師の間でシェアする一大イベント「フェリア・デ・プロフォコム」が催された。私も、環境教育プロジェクトを進めている夜間の成人学校(幼少期に教育を受けられなかった大人が通う)ともに参加した。小学校から高等学校までが、ペットボトルなどの廃材をごみ箱にするリサイクル工作、近所でとれる草を使って作る薬草、生ごみを原料とするたい肥で育てた野菜などを展示していた。
とりわけ目を引いたのはリサイクル工作の多さだ。私が作ったもの以外にも扇子や新聞紙でできたドレスなどユニークなものがたくさんあった。ボリビアはいま環境ブームなのだと実感した。
■未来を考える子どもを育てたい
ところがイベントが終わった後の会場はごみの山だった。ごみが散らかっているだけではなく、壊されたごみ箱もあった。私は驚いた。環境教育をしている教師がなぜ、環境教育のイベントで、大量にごみを捨てて帰るのだろう‥‥。
環境教育プロジェクトを私と一緒に進めている教師のペドロさんは「これがタリハの問題さ。環境教育をしている先生も結局、口だけで、行動しない。ただ、環境教育をしたっていう成果を発表したいだけなんだ」と言う。
教師だけではない。ボリビアの農業省で働いて、環境の重要性をよく話してくれるボリビア人の友人ですら、走行中のバスの窓からごみをポイ捨てする。タリハの市営ごみ収集会社勤務のジョニーさんは「大人がポイ捨てすれば、子どもはそれを真似る。大人の行動を変えるのは難しい」と説明する。
ごみを捨てるな、と教室で教える教師が外でポイ捨てするという現実。典型的なボリビア人にとって、環境意識と行動の間にはとてつもなく大きなかい離がある。だが私は最近、行動様式が変わるにはやはり長い年月が必要なのだろう、と思うようになった。
「環境教育を受けた子どもが親に注意するようにならない限り、ポイ捨てはなくならない」とジョニーさん。1人当たり国内総生産(GDP)が約3400ドル(約35万円)とラテンアメリカでも経済発展が遅れているボリビアはいま、消費社会に変わっていく真っただ中だ。マドレ・ティエラに優しい新たな行動が定着するには、次世代の子どもたちがボリビアの未来を考えて生活していくことが欠かせない。私は、そんな子どもが育つ環境を現場の教師とともに作っていきたい。(廣瀬大和)