【フィジーでBulaBula協力隊(15)】主食のキャッサバは「国連お墨付きの黄金野菜」! 世界の食料危機を解決?

マーケットで売られるキャッサバ。値段は山積みで3~5フィジードル(180~300円)。フィジーの1時間当たりの最低賃金2フィジードル(約120円)と比べてもキャッサバは安いマーケットで売られるキャッサバ。値段は山積みで3~5フィジードル(180~300円)。フィジーの1時間当たりの最低賃金2フィジードル(約120円)と比べてもキャッサバは安い

山積みで売られる「キャッサバ」。フィジーでは1日3食キャッサバという家庭もあるほど、食卓に欠かせない主食だ。この庶民の味方が今、世界の食料・栄養問題を解決するのでは、と注目されている。青年海外協力隊員としてフィジーで生活する中で体験した万能野菜キャッサバの活用法と、この野菜がもつ可能性を掘り下げてみた。

■茹で・揚げ・パイと多彩なメニュー

「カナ(召し上がれ)」と出てきたのは、茹でたキャッサバの山、フィッシュロロ(白身魚のココナツミルクあえ)、チョップシー(焼きそば)。フィジー人にとって、日曜日に教会のミサに出席した後、用意される食事は一番のごちそうだ。

メインディシュに必須なのがキャッサバ。茹でたものをスティック状に切り、トマトケチャップやおかずにディップして食べるのがフィジー流だ。ボリューム満点で味の濃いフィジー料理と、淡白な味のキャッサバは相性がいい。

フィジー人はこのキャッサバをこよなく愛する。フィジーの家庭はたいてい、キャッサバ畑をもっている。そこではまるまると太ったイモが1年中採れる。日用品の多くをスーパーで買うようになった今も、南の島の住人らしく「主食だけは昔ながらの自給自足」を通している人も多い。フィジー人の知り合いは「キャッサバがないとご飯を食べた気がしない」とまで言う。

キャッサバは正直、それほどおいしくない。甘味もなく、もちもちとした食感で、デンプンにそのままかじりついている気がする。フィジー人は飽きもせずに毎日食べていられるな、と私はこの国で暮らし始めたころ思っていた。

ところが1年半以上も暮らすうちに、キャッサバの皮を自分でむき、調理し、食べるようになった。職場に行けば、同僚と一緒にキャッサバランチ、町のレストランでもキャッサバが当然出てくる。いつのまにか私もフィジアン(フィジー人)の味覚になってしまったようだ。

茹でたキャッサバに飽きても心配なかれ。油でカラッと揚げれば、おやつにぴったりの「フライドキャッサバ」になる。もう少し薄く切って、オリーブオイルで揚げたものは「キャッサバチップス」として商品化されている。甘党には茹でたイモを潰して生地に使った「キャッサバパイ」がおすすめだ。

■バイオ燃料から薬・酒まで

キャッサバは人間が食べるだけではない。加工して家畜の飼料にもなるし、また工業用としても利用できる。デンプンを多く含むキャッサバは、アルコール発酵させれば石油に代わるバイオエタノール(バイオ燃料の一種)になる。バイオ燃料は、石油に比べて温室効果ガスの発生が増えないとされているので、環境にも優しい。

フィジーのキャッサバ畑。フィジー人の家や村には必ずある。日本で人気の「タピオカ」は、キャッサバを原料に作ったデンプンだ

フィジーのキャッサバ畑。フィジー人の家や村には必ずある。日本で人気の「タピオカ」は、キャッサバを原料に作ったデンプンだ

聞くところによると、バイオエタノールの主な原料であるトウモロコシの価格が高騰していることを受け、安価なキャッサバのバイオ燃料としての需要が高まっているという。農畜産業振興機構の2014年のデータによれば、キャッサバの生産量が世界2位のタイは2013年、工業用のキャッサバチップの輸出量が前年比24%増えた。

エタノール以外にも、薬や紙、酒、バイオプラスチック、化学繊維にいたるまでキャッサバの用途は広い。

キャッサバのすごさはほかにもある。栽培に手間がかからないことだ。荒れた土地でも育ち、畑を耕さなくてもいい。病害虫にも強いので、放ったらかしでも育つ。種から育てる必要もない。地面の下にできたイモを掘り起こした後に、上部の茎を適当に切って地面に挿すだけでいい。適当な温度と水さえあれば3~4カ月後で収穫できる。

また、デンプンの含有量がほかのイモより多く、それを取り出しやすいのも利点だ。

■世界で7人に1人が食べる!

キャッサバの知られざるポテンシャルにかねて目を付けてきたのが国連食糧農業機関(FAO)だ。2013年に発表した「持続的な作物の生産向上のためのガイドライン」で、キャッサバの「食料としての価値」を特に評価。伝統的な農法など環境に配慮して栽培すれば、世界の食料・栄養問題の解決に寄与する“21世紀の作物”になりうる、と太鼓判を押したのだ。

キャッサバは一見するとただのイモ。だがFAOは2008年のニュースレターの中で「世界105カ国の10億人が主食とする重要な作物」と紹介している。バイオ燃料のように工業用途での生産・使用が増加しているとはいえ、現在でも世界の7人に1人がキャッサバを毎日食べていることになる。まさにキャッサバは多くの人の命をつなぎ、ビジネスにも貢献する「黄金野菜」なのだ。

キャッサバは歴史的に、アジアやアフリカなどの貧しい農村地帯で主食とされてきた。今でもキャッサバを主食とするのは、アフリカ、南米、大洋州の一部と途上国が大半を占める。これは、厳しい環境でも育つキャッサバの強さと、主食になりうる栄養価・カロリーの高さによる。生産国もナイジェリア、ブラジル、タイと途上国が並ぶ。

FAOによると、農薬や肥料による土地の酷使をやめ、環境循環型農業に徹すれば、キャッサバの生産高は最大で現在の4倍まで増やせるという。持続的な農法で生産を伸ばすこと、途上国の飢餓・貧困を撲滅できる可能性もある。

キャッサバはひょっとすると本当に途上国を食料危機から救うかもしれない。遠くない将来、キャッサバから作ったバイオエタノールで車が走り、キャッサバを食べ、キャッサバの酒で晩酌をする日が来ることも‥‥。そんなことを考えていたら、マーケットに山積みのキャッサバがやたらと立派に見えた。