フィリピンで法律を浸透させるのはNGOの役割、政府は何もしない!?

フィリピンのNGO「PREDA基金」が開く人権セミナー(サンバレス州)。ラフな雰囲気が途上国らしいフィリピンのNGO「PREDA基金」が開く人権セミナー(サンバレス州)。ラフな雰囲気が途上国らしい

フィリピンで法律を周知させる役割を担うのはNGOだ。議会は法律を作るだけだし、行政府は何もしない。サンバレス州オロンガポ(米国のスービック海軍基地がかつてあった場所)に拠点を置く地元の人権NGOのPREDA(ピープルズ・リカバリー・エンパワーメント・アンド・デベロプメント・アシスタンス)基金は、「児童特別保護法」と「女性と子どもに対する反暴力法」が定める子どもの権利を社会に広めるために、ザンバレス州を中心に人権セミナーとパペットショーを開催している。

PREDA基金の人権セミナーの対象となるのは、バランガイ(最小の行政単位)の保護者約2400人(年間)、バランガイの役人約900人(同)、学校教師約500人(同)だ。人権セミナーは野外のバスケットボールコートにいすを並べ、PREDA基金のスタッフ2人が説明する。

社会福祉開発省(DSWD)は、セミナーの許可を出し、開催日時を決めるだけ。NGOのこうした活動を支えるのは、米国国際開発庁(USAID)などのドナー(援助機関)だ。フィリピン政府がNGOを金銭的に支援することはない。

「政府は法律を決めるだけ。広報活動は限られた範囲でしかしない」とPREDA基金のスタッフは諦めたように話す。法律が成立した後、政府はメモランダム(概要をまとめた簡単な資料)をNGOにメールで送る。児童特別保護法と女性と子どもに対する反暴力法は、児童と女性の権利を保護するための「特別委員会」の設置を地方政府と学校に義務づけているが、バランガイの役人や教師は、それをNGOの啓発活動を通じて知るのが実情だ。

フィリピン政府は、子どもや女性など弱者の権利を保障する「法制度化」を進めている。しかし「法律はただの紙切れ。執行が十分ではない」とPREDA基金のスタッフはため息をつく。権利保護を推進するのは事実上、政府ではなくNGOだ。

いつまでNGO頼みの状態が続くのだろうか。PREDA基金のスタッフは「中央政府は(役人の)汚職のせいでお金がない。だから何もできない」と言い切る。政府が定める「人権保護の義務」を、NGOが浸透させるという皮肉な状況はまだまだ終わりそうにない。