セブ市テヘロ地区の「強制移住プロジェクト」を考える、行き場がないケースも

0909熱田さん、DSCF1518メイルナさんが暮らす家。ビニールなどの廃材を使った簡素なつくりだ

「ドンドン! ガン、バタン!」。困惑した表情で立ち尽くす住民を傍目に、家が次々と壊されていく。セブ市テヘロ地区のドニャペパンセメテリーでは現在、市当局が「強制移住プロジェクト」を進めている。この地区の住民は、市当局から「家を解体する」と書かれた通知が届くと、解体の日までに家から立ち退かなければならない。

「いつ解体の通知が来るかわからない。その時を待ち続けるのは、不安で、本当にストレスがかかるの。新しい生活を始めるにも十分なお金がないのに…。あなた、助けてくれる?」。強制移住の対象地の中で小さな売店を営むアントネット・バカラさん(45歳、女性)はそう苦笑いをする。移住をするにしても、市当局から与えられるのは、現在よりずっと狭い土地だけ。家は自分で建てなければならない。

もっと深刻な状況に追い込まれた住民もいる。「お金がない。家もない。でも一番問題なのは、行く場所がないことなの」。そう肩を落とすのは、メイルナ・セルスティーノさん(36歳、女性)。コンクリートの塀の角にビニールなどの廃材をくくりつけただけの簡素な家で、夫と4人の子どもと一緒に暮らす。普段はプラスチックや缶などのごみを集めて売り、良い時の収入は1日200~300ペソ(510~770円)。最低限の食事がとれるギリギリの生活だ。

強制移住プロジェクトにより、当然彼女も今住んでいる場所を離れなければならない。しかし、小さくても新しい土地を与えられる移住者とは異なり、メイルナさんは土地をもらえない。

「私たちは、きちんとした家に暮らしているわけではない。だから、他の人たちみたいに移住するための新しい土地がもらえないの。こんな家ならまた作れるけど、そもそも、追い出された後に行く場所がなければどうしようもできないわ」