FoE Japanとアジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)は12月22日、フィリピンの人権侵害についての報告会を開催した。登壇したヒューライツ大阪の藤本伸樹さんは「フィリピンでは人権活動家などが(同国で非合法とされる)共産主義者と決めつけられ、上意下達的に殺されている。(警察など)の容疑者は処罰されない」と指摘する。2016年からの4年間で8663人が超法規的に殺害されたという。
ドゥテルテ政権下で横行
超法規的殺害とは、警察や軍などが司法の手続きを経ずに、容疑者を殺すこと。フィリピンでは2006年に死刑が廃止されたが、超法規的な殺害はいまだに横行している。
これはドゥテルテ前大統領が就任した2016年から顕著だ。ドゥテルテ前大統領は麻薬の中毒者や売人の取り締まりを強化。麻薬捜査中に容疑者が死んでも警察の罪を問わなかった。これにより多くの人が超法規的に殺された。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によると、2016年7月〜2020年6月の4年間で超法規的に殺されたのは8663人。だがこれは少なく見積もった数字だ。他の人権団体の報告ではその数は3倍に膨らむ。家族の前で殺された人たちや巻き添えで命を落とした子どももいたという。
アジア最悪の超法規的殺害国家
だが殺されたのは麻薬犯罪の容疑者やその関係者だけではない。鉱山や農園などの開発に反対する活動家や住民、政府を批判するジャーナリスト、法律家(弁護士、検事、裁判官)もだ。国際NGOのグローバルウィットネスによれば、2012~21年の10年で超法規的に殺された環境・人権活動家はフィリピンで270人。これは世界で3番目、アジアではダントツのトップだ。
「ドゥテルテ政権(6年)下だけでも約60人の法律家が殺された。だが容疑者は不処罰のまま」(藤本さん)
活動家や法律家の超法規的殺人を助長するのが、「共産主義武装勢力との紛争を終わらせるための全国タスクフォース」(NTF-ELCAC)と「反テロ法」だ。ドゥテルテ前大統領が2018年に発令したNTF-ELCACは、フィリピン全土で共産主義勢力を打倒しようという声明だ。
これは共産主義者だけでなく、合法の左翼団体やNGOも「共産主義者」とレッテルを貼られること(赤タグ付け)を意味する。NGOと連携する地域住民は自分たちも赤タグ付けされるのではないかと恐れ、政策に対して反対意見を言えなくなった。
2020年に可決された反テロ法は、テロ行為を未然に防ぎ、テロリストを罰する法律。警察や軍は令状がなくても容疑者を逮捕、拘束できる。政府はこれを悪用し、ドゥテルテ政権に反対する先住民やNGOをテロリストとしてリストアップ。拘束や殺害を繰り返す。