【環境と開発の接点(2)】ごみはどう処理する? サバンナの真ん中にごみ捨て場!!

2006.12.01サバンナの真ん中にある、マリパのごみ捨て場。中間処理はまったくしておらず、ただ捨てるだけの場所。村からごみを排除するというメリットは少なくないが、村の中心からわずか2~3キロメートルしか離れていない。小さなごみ捨て場はサバンナの中に無数に点在する。ハエや蚊が発生しやく、食中毒やデング熱、マラリアなどの病気が流行する元凶にも

ごみは厄介だ。モノの数だけごみは出るし、時代とともに“消えないごみ”も増えていく。すべてを、土や水、空気を汚染しないよう処理することができれば理想。ただ途上国では、住人の環境意識の欠如(ソフト)に加えて、自治体の資金不足(ハード)という現実もあり、どこもごみ問題に頭を抱えている。ベネズエラのマリパ村とその周辺を例に、ごみの現状に迫ってみた。

■トイレットペーパーはどこに行く?

「トイレでうんちをしたら、お尻を拭いたトイレットペーパーは便器に流さないように。詰まっちゃうから。便器の横に置いてある箱に入れておいて」

ベネズエラ環境省マリパ事務所に赴任した当初、所長のレイナルド・ゴメスさん(45歳)からこう念押しをされた。

トイレットペーパーは流してはいけない。これはラテンアメリカの常識。ちなみにこのオフィスには私を含めて3人が暮らし、このほかに5人が通ってくる。だからこの箱はすぐにいっぱいになる。

問題はその汚れたトイレットペーパーをどう処理するかということ。このオフィスには驚くなかれ、「ごみ箱」は存在しない。黒い大きなビニール袋がひとつ、オフィスの中にどんと置いてある。そこに瓶やら缶やら紙やらプラスチックやら食べ残しやら、そしてもちろん使用済みトイレットペーパーも一緒くたに入れるのだ。早い話、お尻を拭いた紙がオフィスの中に数日間保管されることになる。

いまでこそずいぶん“慣れた”ものの、来た当初はとても耐えられなかった。

「うんちの付いた紙をオフィスの中(トイレの中ではない)に置いておくのは衛生的にも良くないでしょ。汚い。庭で燃やしてもいい?」と私が懇願すると、「待て。じゃ、いまからトラックで捨てに行こう」とレイナルドさんは答えた。

環境省のトラックに同乗して向かった先はサバンナ。わずか5分ほど走ったところになんとサッカーグランドほどの広さのごみ捨て場があったのだ。

ハエの大群が窓から押し寄せ、いろんなごみの混じったにおいが一気に充満し、思わず口をつぐむ。別のスタッフがトラックから降り、ごみ袋をサッと外に投げ捨てた。

「これできれいになったぞ」

レイナルドさんはにっこりと胸を張った。

■ごみの回収サービスはない!

マリパは行政上、スクレ市の集落のひとつになる(マリパは市役所所在地)。スクレ市の人口はたったの1万5000人ほどなのに、面積は横浜市よりずっと広い。交通インフラが悪く、すべて陸路で到達するのはほぼ不可能だが、クルマで行ける範囲だけでも、端から端まで4~5時間はかかる。

見渡す限りサバンナ。あと目につくのはごみ。ごみがあまりに散乱しているので、私は最初、スクレ市にはごみの回収サービスが存在しないんだな、と思っていた。

市役所に話を聞きに行ったとき、ごみの担当者であるディエゴ・ディアモンテさん(34歳)はこう教えてくれた。

「スクレ市は、パッカー車を2台持っている。だけど1台は故障中なんだよ。実際に稼働しているのは1台。すべての集落のごみを回収するのは到底できないから、マリパをはじめ、3つの村のみでしかやっていない」

ただこの回収サービス、はっきり言って、ごみを単に“動かす”だけ。パッカー車は、各家庭から出されたごみ(ビニール袋やポリバケツの中に入っている)を積み込むと、サバンナに直行。そのままごみ捨て場にドサッと捨てるのだ。

リユースやリサイクルは言うまでもなく、焼却などの中間処理もなし。地面をシートで覆いもしない。早い話、路上にポイッと捨てる代わりに、サバンナにドサッと捨てるだけ。ごみ捨て場に時々火を放ち、野焼きもしている。

このやり方についてディエゴさんは「資金がないから」と苦笑いする。市役所でかつて働いていた、村一番のインテリであるエルピディオ・ヒメネスさん(64歳)が内情を教えてくれた。

「スクレ市の通常予算は年間およそ5億円。このうちの8割(4億円)が人件費関連で消えてしまう。市役所で常時働いている人は400人ぐらいと多いし‥‥。マリパには仕事がないから、できるだけたくさんの人を雇う。それが市長にとって格好の人気取りになる。残りの1億円で道路を舗装したり、電線を補修したりする。それでおしまい」

ごみ問題は後回し。住人にとってみれば、“あした”のリスクを軽減するごみ処理よりも、“いま”の暮らしを支える道路や電気を少しでも整備してもらうほうがはるかに嬉しいのだ。

ごみ回収のない大多数の村は、いわば陸の孤島。行政の支援はゼロ。自分たちで何らかの対策を立てて実行するしかないわけだが、ごみの知識も、働く意欲にも欠け、また「ごみが汚い」という感覚さえも鈍っている彼らが、独自で解決方法を模索することはとても難しい。

■オリノコ川は“ごみフロウ”!

80年代の終わりに世界的大ヒットを記録した「オリノコ・フロウ」という名曲がある。アイルランドを代表する歌手、エンヤが妖精のような声で歌い上げたバラードだが、この歌の舞台となったのがオリノコ川。南米3位のこの大河は、マリパからそんなに離れていないところを流れている。

オリノコ川沿いにはいくつも集落がある。モイタコという人口2千人ほどの村もそのひとつ。数百年の歴史を誇るこの村にはごみの回収サービスはない。ではどうするか。ごみはオリノコ川に投げ捨てるのだ。マリパではサバンナに捨てるが、モイタコではオリノコ川がごみ捨て場に取って代わる。悲しいかな、世界中の多くの人がエキゾチックなイメージを抱く「オリノコ・フロウ」の現実は“ごみフロウ”なのだ。

「オリノコ川は、流域で暮らす人々にとっては大事な水源でしょ。そこにごみを捨てるということは、下流の人が汚い水を飲まなくちゃいけないということなんだよ」とモイタコの住人に言い聞かせると、「そんなこと言われたって‥‥。ごみを捨てるところがないし。(季節によって水位が大きく変動するため、川べりに溜まったごみも)雨季になれば川に流れ出し、“きれい”にしてくれるよ」と肩をすくめた。

一方、変わった視点でごみ問題に取り組んでいる自治体もある。

オリノコ川の対岸にある、人口約8万のエルティグレという町(アンソアテギ州)だ。路上にはごみ箱が置かれ、ごみも気になるほど道端に落ちていない。

ごみ箱には「エルティグレ人の誇り」という意味のフレーズが書かれている。環境にやさしい行動を通して自分たちの誇りを高めていこう、というメッセージが込められているのだ。

路上にごみ箱を置くというのは、途上国では実はなかなかすごいこと。無用心に設置すれば、何かと使い道のあるごみ箱そのものが盗まれてしまう。盗られないようにごみ箱を地面に固定すると、今度はごみ箱の中身をパッカー車に移す作業が面倒になるし、余分なコストもかかる。

だからマリパをはじめ、途上国の多くの場所では、ごみ箱を外に置きたくても置けないという隠された事情もあるのだ。

高校に通うニノスカ・カスティージョさん(17歳)は言う。

「ごみをどうにかしたいとはみんな思っている。村をきれいにすれば、マリパにだって観光客が来てくれるかもしれないでしょ」

ごみをきちんと処理すれば、収入も増え、生活そのものが良くなる可能性もある。まずはごみ箱から。そしてごみ捨て場へ。やはり地道に歩を進めていくしか方法はないのだろう。ごみは自然に消えてはくれないのだから。(続き