国際協力NGOの苦悩、震災をどう乗り越えるか

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東日本大震災の発生から3カ月超、国際協力NGOは大きな試練に立たされている。被災地支援に乗り出した団体のもとには、震災対応のための巨額の寄付が集まった。だがその一方で、本業の国際協力は資金が足りない。東北支援か、貧困撲滅か――2つの狭間で、国際協力NGOは揺れている。

■使い切れない震災マネー

「こんな金額、これまで手にしたことがない。どうやって使うんだ」

東日本大震災の被災地支援を手がける大手国際協力NGOはいま、こんな話で持ちきりだ。

震災絡みでNGOが手にした寄付金(震災用活動資金)は合計で100億円を下らないといわれる。年間数千万円の予算でこれまで活動してきた小さな国際協力NGOの財布にさえも突如、億のカネが舞い込んだ。

これらの寄付金はすべて震災オンリー。96の国際協力NGOが加盟するネットワーク型NGO「国際協力NGOセンター(JANIC)」の山口誠史事務局長は「団体のキャパシティーをはるかに超える金額が集まってきた。きちんと管理し、有益に使うのは至難の業という事態に陥っている」と実情を明かす。

とりわけ、寄付が集中するのは子どもの分野だ。対照的に、高齢者や障害者への支援は少ない。「人工透析できずに死んでいく老人もいる」とはよく耳にする話。つまり、NGO全体でみると“カネ余り現象”が起き、しかしそれをミクロレベルに落とすと「援助格差」がひどいという矛盾をはらむ。

あるNGO関係者は暴露する。

「子ども支援の国際協力NGOが、対象を『高齢者』に広げるとの計画もある。これは良いとして、寄付金を無理に使おうと被災地でプロジェクトをやみくもに立ち上げるケースもある。もっと驚くのは、大手NGO(ほとんどが国際協力NGO)の間で、仮設住宅向けの物資や建物の建設といった大型案件が取り合いになっていること。カネを一気にはけるからだ」

援助のバラマキを憂慮して山口JANIC事務局長は「新しい公共の推進会議」のなかで「市民社会支援基金」の創設を提唱している。これはNGOが使い切れない震災マネーをプールして、「長くかかる復興の資金」と「次の震災への備え」に活用するのが狙いだ。

集まらなくなった国際協力資金

震災マネーが過剰に流入するのとは裏腹に、国際協力の活動資金は極端に集まらなくなった。多額の寄付が東北に向かい、その余波をもろに受けているためだ。複数のNGO関係者の話を総合すると、国際協力の寄付金は震災前と比べて2~3割減っているという。市民社会支援基金が仮にできたとしても、震災マネーが国際協力に使えるようになるわけではない。

個人からの寄付は激減状態。しかし国際協力NGOにとってより深刻なのは、各種財団や助成団体などのドナーが「震災対応ならばお金を出すが、国際協力の案件はちょっと難しい」とのスタンスをとっていることだ。

山口JANIC事務局長は「ドナーのなかには『震災を絡めた国際協力のプロジェクトに助成したい』との要望もある。ただこれは到底、無理な話」と悩みを打ち明ける。

国際協力NGOの資金源は、草の根・人間の安全保障無償資金協力や日本NGO連携無償資金協力などの「政府開発援助(ODA)」、財団などの「助成金」、一般からの「寄付」の3つに大別される。草の根やNGO連携無償は減らされていないが、助成金や寄付の減額は、多くの国際協力NGOにとって、海外で実施中のプロジェクトの継続を困難にさせるだけでなく、経営の根幹をも揺るがしかねない問題となりつつある。

61の国際協力NGOが加盟するNGO「動く→動かす」の稲場雅紀事務局長は「こんな状況で、(2015年をターゲットとする)『ミレニアム開発目標(MDGs)』は達成できるのか。貧困削減や紛争予防などの国際協力プロジェクトを国際協力NGOが手がけられないとすれば、それはおかしい」と疑問を投げかける。

国際協力NGOを悩ます資金難をめぐる状況は、いまはまだ序の口かもしれない。「本当の危機は1年後。いまのうちに何か手を打っておかないと大変な事態に陥る」と警鐘を鳴らす向きもある。

■震災マネーを国際協力に回せないか

ここで素朴な疑問がひとつ浮かぶ。国際協力NGOが保有する“使い切れない震災マネー”を“足りない国際協力活動資金”に回せないのだろうか。そうすれば万事が解決するはずだ。

しかし現実はなかなか難しいという。動く→動かすの稲場事務局長は、その理由についてこう説明する。

「日本はコンプライアンスや規律に厳しい国だ。だから『震災に使ってほしい』と寄付した人の気持ちに応えるべきと考えるNGO経営者がほとんど。だが寄付金を行政に寄付することもできず、NGOは本当に困り果てている」

大きな災害が発生した際に、需要を上回る寄付が集まることは世界的にも珍しくないようだ。死者22万人を出した2004年のインドネシア・スマトラ島沖地震もそうだった。

「このときは余った寄付金を震災以外の用途に振り向けた。すると大きな批判が沸き起こった。東日本大震災でも、現実として震災向けにお金が集まっているわけで、(国際協力を専門とするNGOであっても)震災対応に専念してほしいとの声は寄付者の間で根強い」(山口JANIC事務局長)

もちろん正反対の意見もある。飢餓撲滅に取り組む国際協力NGO「ハンガー・フリー・ワールド(HFW)」の渡辺清孝理事・事務局長は、寄付者に事情をきちんと説明さえすれば、資金の半分を途上国支援に回すことも可能ではないかと主張する。

「寄付してくれた人に『途上国のために使わせてください』と頼む。それでも納得してもらえなければ寄付金をお返しする、というのはどうか。批判も一部から出るだろうが、救うことのできる命の価値を考えると大した問題ではない。それよりも国際協力NGOが寄付金を無駄遣いしたとすれば、われわれがかねてから訴えてきた『ODAの援助効果』について何も言えなくなってしまう」

■本業にいつ回帰できるのか

国際協力NGOにとって、資金のアンバランスと並ぶもうひとつの苦悩――。それは、被災地への支援をいつまで続けるかだ。

震災で集まった寄付金がまだ残っているのに、被災地から撤退できない、というのが現実的な論調。「お金を使い切るまで活動する」と割り切るNGOがある一方で、緊急支援の段階が終わったいま、大半の国際協力NGOは自らの存在意義と照らし合わせて撤退時期を決めあぐねている。

被災地で活動する国際協力NGOのなかには、海外プロジェクトの担当者を日本に呼び戻したり、チーフクラスを被災地に長期で張り付けたり、また事務局長自身が陣頭指揮をとったり、さらには3~4年の復興支援を見越して国内事業部を立ち上げたり、と活動に入れ込む団体もある。

理想的な出口戦略は言うまでもなく、現在の活動を地元のNPOに引き継いでもらうこと。いわゆる「現地化」だ。そのNPOに対するファンディングも一策。ただこれは“言うは易く行うは難し”。なぜなら、両者の間に大きなかい離が存在するからだ。

地域のNPOと国際協力NGOでは、資金規模に10~100倍の開きがあるのはざら。また、地方生活者であるNPOの人たちに対し、国際協力NGOのスタッフには海外の大学や大学院を出たエリートもいる。価値観の違いに由来する“違和感”は、被災地で活動するボランティアですら口にする。

こうしたなか、初めから明確な出口戦略を立てて活動するのが、途上国の女性と妊産婦を支援する国際協力NGO「ジョイセフ」だ。ジョイセフは、被災地に住む妊産婦のケアを支援しているが、表舞台にはまったく出てこない。日本助産師会に所属する地元の助産師が実際の活動を担い、ジョイセフはあくまで、金銭などの側面支援にとどまっているからだ。深入りして、たとえば助産院を建てるようなことはしない。

ジョイセフの石井澄江常任理事・事務局長は「東北に限らず、どんなプロジェクトにも必ず終わりがある。しかし母子保健のようなサービスは続けないと意味がない。ならば、最初から地元の助産師に一線で活動してもらったほうが、サービスの継続と安定につながる。現地化していれば、支援から手も引きやすい」と力説する。

「被災地で活動しない」選択肢

出口戦略の“上をいく”といった意味では、被災地で活動しないとの選択を下した国際協力NGOもある。「動く→動かす」を例にとると、加盟62団体のうち約40団体が被災地での活動を見送った。

HFWもそのひとつだ。HFWはもともと「緊急支援はしない」方針をもつ。「開発援助(国際協力)でも十分な成果を挙げられていないのに、緊急支援に手をつけると本業が鈍る。誰もやらないのならともかく、東日本大震災ではいろんなところから膨大な金額が集まっている。その半面、国際協力はじり貧だ」(渡辺HFW事務局長)

日本政府は5月上旬、震災復興の費用を捻出するため、今年度のODA予算を一次補正で1割削減したが、民主党は当初、2割削減を主張。これに対して国際協力NGOはこぞって「復興支援はもちろん重要だが、途上国の貧困層への支援もそれに劣らず重要。両者は天びんにかけるものではなく、両立すべきだ」と猛反発の声を上げたことは記憶に新しい。

ところが皮肉なことに、当の国際協力NGOが気がつけば、震災復興にカネ・ヒト・時間をとられ、被災地支援にのめり込んでいる。「それぞれのNGOが掲げる『理念』と被災地での『活動』の間の整合性はどうつけるのか。途上国の貧困削減プロジェクトが後回しになっていいのか」と渡辺HFW事務局長は首をかしげる。

そもそも世界に目を向ければ、津波による被害者は膨大な人数にのぼる。福島県では、福島第一原子力発電所の事故で十数万人が国内避難しているが、紛争で何十年も故郷に帰れない人のほうが比べ物にならないほど多いという途上国の現実を忘れてはならない。

ただ、当然だが「今回のような大規模な震災で国際協力NGOが動かないと、NGOの存在意義そのものが問われてしまう」(山口JANIC事務局長)と危惧する見方もある。実際、国際協力NGOは初動も速く、緊急支援では大活躍。そのプレゼンスを東日本大震災で高めたこともまた事実だ。

支援をする・しないのどちらの選択が正しいかではない。ここで強調したいのは、出口戦略をあらかじめ策定しておく重要性だ。渡辺HFW事務局長は「組織とは一隻の船である。1つのNGOのキャパシティーは決まっている。救える命には限りがある」との言葉を繰り返す。

■「恩返し」で国際協力をリバイブ?

国際協力NGOにとって現在の最大の関心事は、どうやって国際協力の潮流をリバイブさせられるかだろう。いまはまだ世界の貧困問題を取り上げても、誰も見向きはしないが、時機を見て「震災も、国際協力も、並行してやり遂げよう」という意識を日本社会に醸成していかない限り、国際協力業界は「震災」という名の“免罪符”の前に苦境に立たされ続けてしまう。

国際協力をリバイブさせるにはどんな理論の展開が可能なのか。動く→動かすの稲場事務局長や石井ジョイセフ事務局長は「秋ごろから、『恩返し』の観点で国際協力の必要性を訴求していきたい」と口を揃える。

日本は今年、世界最大の被援助国になる。ODA拠出額5位の日本に、途上国が支援の手を差し伸べてくれた。アフリカ諸国からの義援金だけで約12億円。うち、貧しいサハラ以南でも約4億円にのぼる。ナミビア、ガボン、ケニア、赤道ギニア、ボツワナ、セネガル、コンゴ‥‥。

石井ジョイセフ事務局長は「日本が今回受けた恩返しは重い。第二次世界大戦後に、途上国だった日本が先進国から援助してもらうのと、先進国となった日本が途上国から助けられるのでは意味がまったく違う」と言い切る。

永久に続く恩返しの連鎖――。東日本大震災に見舞われた日本は甚大な被害を出したが、これは視点を変えると、これまで「上から目線」だった途上国援助に対する日本人の認識を根底から覆すかもしれない。動く→動かすの稲場事務局長は願望を込めて言う。

「日本は今回、ルワンダの内戦やウガンダのHIV・エイズ、インドネシア・アチェの津波、ハイチの地震などと同様、人間の大量死を体験した。途上国と類似した経験を共有したことで、『国際協力はお互いさま』という価値観が日本社会に広がる可能性もある」

また石井ジョイセフ事務局長は「東日本大震災をきっかけにして、少しでも寄付文化が日本に根付いてほしい。そのお金で途上国に再び恩返しをしたい」と恩返しという言葉に力を込める。

■震災に“便乗”して寄付を募る

一部の国際協力NGOはすでに、国際協力のリバイバルに向けた動きを見せている。キーワードは、良い意味で、東日本大震災への“便乗”だ。

動きが最も早かったのがHFW。渡辺HFW事務局長は、3月11日に震災が起きた時点で「国際協力どころではなくなる。寄付金は減るだろう」と考えたという。そこで思い立ったのが、「震災支援」と「飢餓対策」をセットで寄付を募る戦略だ。家庭に眠っている書き損じハガキを回収し、その換金額の半分を東日本大震災の災害救援に、残りの半分を飢餓救援に使う。生協の協力を受け、HFWは6月1日から、合計7万枚の回収用封筒を配った。

その封筒には次のような文章が書いてある(抜粋)。

「本来であれば、資金をすべて被災地に充てたいところですが、今回予想される死者数とほぼ同じ2万5000人が毎日、飢餓や栄養不良で亡くなっています。震災で両親を失った孤児は100人を超えるなど心が痛むと同時に、ウガンダのHIV・エイズ孤児は120万人であることも事実です。途上国の人々への支援を滞らせるわけにはいきません」

HFWの年間予算は約1億5000万円。95%を寄付に頼っているが、今回の震災で寄付金は約3000万円減る見通し。だがこの“便乗戦略”で2000万円は取り戻せそうだという。

ジョイセフの“便乗戦略”は「チャリティーピンキーリング」だ。ジョイセフはかねて、妊娠や出産の問題で苦しむ途上国の女性を支援する目的で、定価350円の指輪を販売してきた。1個当たり100円(収益のすべて)がその活動資金として使われる。

チャリティーリングのラインアップの1つとしてジョイセフは急きょ、東日本大震災の被災地で苦しむ女性を支援するリングを作製・売り始めた。名づけて「ホープ」。チャリティーリングはこれまでに約2万個売れているが、この6~7割をホープが占めるという。小指にはめるというこの指輪も、途上国と東北の両方の女性を救う。

国際協力NGOにとって2011年は苦難の年になるだろう。しかし忘れてはならない。もっと悲惨な世界があることを。