リーマンショック後は世界的に「腰の引けた支援」ばかり、日本はODAをどうするのか?

東京・永田町の衆議院第二議員会館で2011年11月11日に開催された「ODA援助効果公開シンポジウム 震災を通して見えてきた援助課題から考える~質の高い援助の実現に向けて~」(主催:外務省とNGO)の第二部「問題提起&パネルディスカッション~震災の経験から考える 質の高いODAの実現に向けて~」では、途上国支援に携わってきた国際協力NGOの立場から、「動く→動かす」の稲場雅紀事務局長と「ODA改革ネットワーク」の世話人である高橋清貴氏の2人が講演。援助効果とODAの必要性について訴えた。

■“ありがた迷惑”の援助が増えていないか

講演のなかで稲場事務局長は、リーマンショック後のODAの傾向について「経済情勢の悪化からドナーは“長期的にお金がかかり、すぐに効果の現れない”プロジェクトを避けるようになってきた。成果が見えやすいプロジェクトに優先して資金を投入したり、小さな課題を見つけては政策化して押し売りするといった“ありがた迷惑”の援助に回帰しているのではないか」と指摘した。

理想的な援助のあり方とは、ドナーが被援助国の既存のシステムを強化することによって、中長期的に被援助国が自立し、政策を担えるようになることだ。ところがリーマンショック後のODAは、かつての援助効率から切り離されたやり方に戻っているように映る。稲場事務局長は「目先の効果にとらわれた切れ切れの支援ばかりが乱立している」と言う。

HIV・エイズの問題がアフリカ諸国でクローズアップされた80年代、「性行為や薬物でHIVに感染した人は“自業自得”だから、母子感染の子どものみを支援する」「国民の税金を使うのだから、自国の企業にメリットがある形で支援させてもらう」などといった“それぞれの国が身勝手な主張”をする傾向が実際にあった。「しかしこうした都合でODAを使っても何の問題解決にもならないし、また自立にもつながらない。だからこそ援助効果は必要だ」(稲場事務局長)

ではどうやって援助効果を高めていくのか。稲場事務局長は「現場と政策の分裂をなくしていくことがまずは必要」と強調したうえで、保健分野でいえば“保健システムから母子保健、非感染症、そしてポリオへ”といった流行に踊らされずに、保健システムの強化にしっかりと根差した援助をすべきだ、と提言した。

一方、高橋氏は、世界が直面する5つの危機(金融・経済・社会・環境・人権)に触れたうえで「このうち、途上国の社会(食アクセスの制限、社会的排除など)、環境(気候変動、生物多様性の喪失など)、人権(集会の自由、結社の自由の制限など)といった3つの危機に取り組むのはODAしかない」と述べ、人道支援の大切さを力説した。

■ODAは誰のためのものか

講演後に催されたパネルディスカッションでは、山内康一衆議院議員(みんなの党)、外務省国際協力局の能化正樹参事官、国際協力機構(JICA)の渡邊正人理事も加わって、ODAは何のための支援か、とのテーマで議論した。

途上国支援に携わった経験を持つ山内議員は「日本が大変なときになぜ海外支援をするのか、という声もある。だが、震災があろうとなかろうと、ODAはやるべきだ。そのときに、日本があげたいものではなく、途上国が必要とするものを届けるべき」と発言。「たとえば途上国の食料支援にあたって必要なのは栄養価の高い穀物。(第3次補正予算に盛り込まれた)東日本大震災の被災地の海産物を途上国支援に振り向けるという事業は、日本の都合であって、途上国のニーズをまったく無視している」と外務省に苦言を呈した。

これに対して能化参事官は「水産加工品による支援は、日本のニーズを押し付けたものではない。安全性は検査で証明されている。もっと日本のモノや人材に来てほしい、という途上国の声は現地でもよく聞く」と反論した。

11年11月29日~12月1日には韓国釜山(プサン)で、援助の「質」について議論する国際会議「第4回援助効果向上に関するハイレベルフォーラム(釜山HLF4)」が開催されるが、稲場事務局長は「『国益』と『国際益』の二極対立ではなく、日本の強みを生かす支援をしていく必要がある。リーマンショック後は世界全体がODAに対して腰が引けている状態だが、日本政府はそうならずに、(他のドナーを)2歩も3歩もリードしていってほしい」と期待を語った。(村木沙耶)