ウガンダ政府の難民受け入れ政策「ReHoPE」に世界が注目! 難民との共生なるか

自転車で薪を運ぶ難民の少年(2015年12月撮影)自転車で薪を運ぶ難民の少年(2015年12月撮影)

東アフリカのウガンダに、世界が注目する難民受け入れ政策がある。2016年にウガンダ政府が始めた「難民とホストコミュニティの住民のエンパワーメント(ReHoPE)」だ。目指すところは、ウガンダ国内の難民居住地で暮らす難民と難民受け入れ地域(ホストコミュニティ)の住民が共生すること。この政策に詳しい、東京外国語大学現代アフリカ地域研究センターの村橋勲特任研究員は「成功するかは、土地、薪などの燃料、建築材(藁)という資源をめぐる争いを解決できるかどうかにかかっている」と語る。

■JICAも協力!

ReHoPEを主導するのは、ウガンダ政府と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)だ。これに加えてパートナーシップ機関として名を連ねるのは、世界銀行、国際協力機構(JICA)などの開発機関、ウガンダ国内外のNGO(プラン・インターナショナルなど)。

ReHoPEでは、難民居住地がある県で不足する医療施設や学校を建てる。難民居住地とホストコミュニティの経済活動を活発化させるため、道路を整備したり、公営のマーケットも建設したりする。この結果、「難民とホストコミュニティ住民の平和的共存」が可能になるという考えだ。

「難民居住地がある県は貧しい場合が多い。ReHoPEによってその地域の経済レベルが上がれば、難民とホスト住民が資源をめぐって争う必要がなくなるというのが狙いだ」と村橋氏は言う。

ReHoPEの対象となるのは、難民居住地のある11の県。難民の多くは南スーダン、コンゴ民主共和国の出身だ。

実施期間は2016年の導入から5年以上の予定で、計上する予算は合計3億5000万ドル(約370億円)。この70%は難民居住地に、30%はホストコミュニティに割り当てるという原則がある。難民居住地とホストコミュニティの予算の使い道はほとんど同じ。病院や学校の建設、道路整備、植林、職業訓練などだ。

村橋氏は「ReHoPEの予算が最も多く割り当てられるのは教育分野。ウガンダでは難民の数が増えているため、学校を建てたり、教室の数を増やしたりするために使われているのだろう」と語る。

病院や学校は、難民とホストコミュニティの住民の両方が使用できるのが特徴だ。ホストコミュニティの住民にとっては、地域の道路や公共施設の整備が進むだけでなく、難民居住地のサービスを受けられるというメリットがある。「難民の受け入れに伴うホストコミュニティの負担を軽減し、ホスト住民の不満を減らすことが目的だ」と村橋氏は説明する。

■契約なしで土地を貸す

だが実際はホストコミュニティ住民の難民に対する不信感は高まっているという。ホストコミュニティの住民には、公共施設が設置される以上の「個人的な見返り」がないからだ。

住民の不満がとりわけ大きいのがウガンダ北部だ。ここの難民居住地は、ホストコミュニティの住民がウガンダ政府に貸している土地。「土地を貸した補償として、ヤギ一頭をもらえることはあるが、それだけだと不十分との声も少なくない。ホストコミュニティの住民は、お金または数頭のヤギをもらうことを求めている」と村橋氏は言う。

村橋氏によると、ホストコミュニティの住民はウガンダ政府に土地を貸す際、補償についての説明を何も受けていない。「県の上層部と中央政府の話し合いで勝手に土地を貸すことが決まったケースが多い。それでも貸した住民は何かしらの見返りがあると思っている。だが何の契約も交わされていないため、いつまで難民居住地として使われるのかもわかっていない」

■「無断で資源をとるな」

ホストコミュニティの住民がもつ不満はすでに、燃料(難民が料理をするときに必要な薪)や建築材(家の屋根を葺くために使う藁)をめぐる難民との対立を引き起こし始めた。「薪は、木炭や灯油と違って無料で手に入る。このためウガンダで暮らす難民の多くは薪を集めるのに半日かけているのが実情だ」と村橋氏は説明する。

「難民居住地では人口が増え、薪や藁が採れなくなった。そのためホストコミュニティに行って採ってこなければならない。そのときに『無断で資源をとるな』と怒った住民が難民へ危害を加え、争いになることがよくある」(村橋氏)

薪をめぐる争いに対し、UNHCRやNGOは解決策を模索中だ。その一環として難民に対し、薪の消費量を減らせる「改良かまど」や「省エネストーブ」を配布した。だが全世帯には行き届いていないという。

■WFPの食料援助が3割カット

ウガンダ北部・北西部では最近、作物を育てるための土地をめぐる争いが増えてきた。原因のひとつは、新型コロナウイルスの影響で3月末から、ウガンダ全土で公共交通機関の運行が制限されたこと。もうひとつは、国連世界食糧計画(WFP)が4月上旬に、資金不足を理由に難民居住地への食料援助を30%カットしたことだ。

「WFPは引き続き、穀物、豆、コーン・ソイ・ブレンド(トウモロコシと大豆を混合した食料)を配給しているが、その他の野菜などは自家栽培するか、マーケットで買う必要がある。だが交通機関がストップしたこともあり、難民居住地のある地方のマーケットに食料が届かなくなった。それに追い討ちをかけるように食料援助が減り、食料不足が深刻さを増した。結果、(作物を育てる)土地をめぐる争いが先鋭化してきた」(村橋氏)

米国の大手放送局ボイス・オブ・アメリカなど複数のメディアによると、2020年9月の初め、ウガンダ北部にあるアルア県のライノ難民居住地で10人以上の難民がホスト住民によって殺された。19人以上がけがを負ったという。

この事件でホストコミュニティの住民らが難民居住地を襲撃した理由は、難民がホスト住民の1人を殺したことへの報復との見方が濃厚だ。そのホストコミュニティの住民は、難民居住地の畑を荒らしたヤギを連れていた牧童だった。ライノ難民居住地では、ホストコミュニティの住民の飼うヤギが難民居住地に進入して畑を荒らしたことが度々あり、難民は憤慨していたという。

2014年に調査を始めてから通算1年以上ウガンダに滞在する村橋氏はこう言う。

「こうした事件はウガンダ北部ではちらほら発生している。しかし10人亡くなるというのはかなり大きい事件だ。ホスト住民と難民の相互の話し合いの場がないため、お互いの不満が解消されない」

WFPが配給したモロコシと豆の料理

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薪の消費量を減らせる「改良かまど」。燃料の奪い合いをとめるには、少ない薪で料理をできるようにすることも重要

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WFPが支給したコーン・ソイ・ブレンド(トウモロコシと大豆を混合した食料)を使って作ったポリッジ(お粥)

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