フィリピンのマイクロファイナンス機関CARD、2016年までに貧困層550万人に融資へ

講演するハイメ・アリストトゥル・アリップ氏。同氏がフィリピンで設立したマイクロファイナンス機関「農業・農村開発センター」(CARD)は2008年に「ラモン・マグサイサイ賞」を受賞した

フィリピンで最大級のマイクロファイナンス機関「農業・農村開発センター」(CARD)の創設者ハイメ・アリストトゥル・アリップ氏は8月7日、立教大学の池袋キャンパスで開催されたシンポジウム「アジアをつなぐNGOとソーシャルビジネスの役割~ラモン・マグサイサイ賞受賞者が語るアジアの未来~」(主催:立教大学21世紀社会デザイン研究科、立教大学社会デザイン研究所、アジア・コミュニティ・センター21)で、CARDの活動について講演した。この中で、「CARDが融資しているのは現在200万人だが、2016年までに550万人に増やしたい」と目標を語った。

アリップ氏がCARDを創設したのは、いまから27年前の1986年。マイクロファイナンスという言葉が世の中にまだ知られていない時代だ。

「最初の2年間はタイプライターで計画書などを書き、資金集めに奔走していた。資金を提供してくれそうな人に『貧困層のための銀行を作りたい』と訴えたが、考えが狂っていると言われた。友人にすら徐々に避けられるようになった」。アリップ氏は当時の苦労をこう振り返る。

アリップ氏は、資金集めのために来日したことがある。宿代を持っていなかったため、成田空港のターミナルビルの中に寝泊まりし、バスに乗って、東京にあるファンディングエージェンシーを訪問したという。「日本では、私の計画を認めてくれる人たちがいた」

CARDが融資するのは、フィリピンの人口(約9400万人)の40%を占める土地なし農民だ。特に女性に絞っている。「女性は、家族のための収入を生み出すメカニズムを作る力をもつ。女性が得た収入は、子どもの教育費や家の修繕費などに使われる」とアリップ氏は言う。

女性に貸すことで高い返済率を担保できるという意味合いもある。アリップ氏は「フィリピン人男性は社交的。お金を貸すと、友人たちとお酒を飲みに行ってしまう。女性と男性は行動が違う。CARDの金利は年12~24%だが、返済率が99%なのは、女性に貸していることも大きな要因のひとつだ」と説明する。

実は、フィリピン国内には多くのマイクロファイナンス機関がある。だがそれ以上に貧困層の数は多い。「特に地方ではマイクロファイナンスを必要とする人がたくさんいる」とアリップ氏。CARDは今後、地方でのマイクロファイナンス業務を推進していきたい考えだ。

アリップ氏はさらに、貧困削減に寄与するBOP(Base of the pyramid=年間所得が3000ドル未満の低所得者層)ビジネスについても言及。「CARDは、BOPビジネスを手がけたい外国企業、それをサポートするNGOなどのパートナーになって、BOPビジネスをフィリピンで推進していきたい」と述べた。CARDは、単なるマイクロファイナンス業者ではなく、数多くの貧困削減ツールを包括的に提供できるような組織への脱皮を目指す。(渡辺美乃里)