スポーツクラブはコロナ対策のハブになれる! A-GOALプロジェクトがケニアなどで食料・せっけん配布

A-GOALプロジェクトで、衛生用のマスクを配るサッカークラブの関係者A-GOALプロジェクトで、衛生用のマスクを配るサッカークラブの関係者

「アフリカの各地域にあるスポーツクラブと協力すれば、新型コロナウイルスに苦しむ人たちをサポートできる」。こう語るのは元青年海外協力隊員で、いまはアフリカクエストの理事兼日本アンチ・ドーピング機構の職員である岸卓巨(たくみ)さんだ。岸さんは2020年5月、アフリカのスポーツクラブをハブ(中心)にして食料や手洗い用せっけんを住民に配るA-GOALプロジェクトを立ち上げた。これまでにケニア、ナイジェリア、マラウイで合わせて861世帯、4117人(2020年9日2日現在)に食料などを届けた。

■ケニアの友人からSOS

「卓巨、助けてくれ。このままでは大変なことになる」

新型コロナの感染が世界中に広まり始めた4月、岸さんはケニアの友人カディリ・ガルガルさんからSOSを受けた。

新型コロナの影響を受け、ケニア政府は4月上旬、首都ナイロビ、港町モンバサとその近郊をロックダウンした。これにより経済はストップ。その日暮らしをしていたスラムの住民は仕事を失い、あす食べるものさえないという状況に陥った。

カディリさんもスラムで生活するひとり。カディリさんは、ナイロビ西部のカワングワレスラムでサッカークラブ「メインストイーム・スポーツ・アカデミー」を運営していた。ところがロックダウンで子どもたちがアカデミーに来られなくなったため、収入を失った。

SOSに応えるため岸さんは5月16日、知り合いのアフリカ好きやスポーツ関係者に声をかけ、A-GOALプロジェクトを立ち上げた。日本で資金を集め、ケニアのスポーツクラブを通じて生活に苦しむスラムの住民に食料や手洗い用のせっけんを届けるためだ。

岸さんはすぐさまウェブサイトを作り、寄付金の募集を開始。また、アフリカクエストが運営するサロン「Africa Quest Innovation Hub」の企画コンペティションで補助金を勝ち取り、A-GOALプロジェクトの資金とした。こうしてプロジェクトが立ち上がって2週間もしない5月27日、ナイロビのカワングワレスラムで初めて食料と石けんを配った。

岸さんがケニアに送金したのは5万ケニアシリング(約5万円)。カディリさんはそのお金で食料とせっけんを購入。アカデミーのコーチや選手と協力し、カワングワレで困っていた家庭50世帯(計246人)に配布した。

配ったのはコメ、トウモロコシの粉(ケニアの主食ウガリの元となる)、砂糖、食用油など、1世帯で2週間分の食料だ。食料とせっけんを受け取ったアカデミーの選手の保護者は「本当に救われた」と嬉しそうに話したという。

これを皮切りにA-GOALプロジェクトは支援を拡大。現在提携するスポーツクラブは、ケニア(ナイロビ、マチャコス)、ナイジェリア(ラゴス、アブジャ)、マラウイ(チェンベ村)で合わせて13カ所にのぼる。

■涙を流して「ありがとう」

「アフリカのスポーツクラブは支援のハブになれる」というのが岸さんの持論だ。アフリカのスポーツクラブは地域に幅広いネットワークをもつ。それを使って、食べ物がない家庭、片親の家庭、障がい者がいる家庭などを見つけ、食料を届ける。

最初の支援でメインストリーム・スポーツ・アカデミーの選手らはスラムの住民に聞きとりをし、一人暮らしの高齢の女性を見つけた。この女性は、行政からの配給も滞り、途方に暮れていた。カディリさんは女性を支援先リストに加え、食料を後日届けた。女性は「本当にありがとう」と涙を流しながら食料を受け取ったという。

住民が何を求めているかを把握できるのも、その地域で活動するスポーツクラブの強みだ。

A-GOALプロジェクトの支援地のひとつであるナイロビのキベラスラムには、ケニア西部のビクトリア湖岸出身のルオ族が多く住んでいる。A-GOALプロジェクトが契約するキベラのサッカークラブは、ルオ族が郷土料理を食べられるよう、オメナと呼ばれる小魚の煮干しとキャベツを支援食料リストに追加した。

政府などの大きな組織ではこうはいかない。カディリさんはケニア政府主導の緊急支援の問題をこう語る。

「各地域にはエリアリーダーと呼ばれる責任者がいて、政府の予算は彼らをつたって住民に配られる手はずになっている。だがエリアリーダーはその資金を友だちや家族の中だけで使ってしまい、地域の住民まで回ってくることはない」

■クラファンで100万円集める

岸さんが地域のスポーツクラブの強みを実感したのは、青年海外協力隊員としてケニアで活動していたとき(2011年)だ。

地域のサッカークラブは放課後に子どもたちを集め、サッカーを教えていた。子どもたちの拠り所となり、犯罪やドラッグから遠ざけるためだ。また定期的に近所を掃除したり、エイズの啓発ワークショップを開いたりしていた。そんなサッカークラブに住民は感謝と信頼を寄せていたという。

スポーツクラブのネットワークの広さと地域からの信頼を実感した岸さんは、ケニアから帰国した後も、スポーツクラブの潜在能力を生かした活動はないかと考えていた。そんな中、カディリさんからSOSを受け、クラブをハブにしたA-GOALプロジェクトを思い立った。

発足から3カ月、70人以上のボランディアの協力者がA-GOALプロジェクトを支えている。8月にはクラウドファンディングも開始。より多くの資金を集め、ケニア、ナイジェリア、マラウイのスポーツクラブを継続支援しながら、ウガンダやセネガルなど新たな国へも支援の輪を広げる予定だ。

またサッカークラブの選手への農業指導、雇用を生み出すためのビジネスの立ち上げなど、緊急支援だけでなく新型コロナに苦しむ人たちの自立支援にも取りかかる。

A-GOALプロジェクトで配るキャベツとその他の食料が入った赤い袋

A-GOALプロジェクトで配るキャベツとその他の食料が入った赤い袋

青年海外協力隊時代の岸卓巨さん(右)とカディリさん(左)

青年海外協力隊時代の岸卓巨さん(右)とカディリさん(左)