「平和的に解決できたらいいのに」、映画が伝えるシリア難民の叫び

シリア難民の女性 (c)UNHCRシリア難民の女性 (c)UNHCR

「本当は武力を使いたくない」「一日も早く平和な祖国シリアに帰りたい」――そんな声が多く収められていた。イアラ・リー監督の映画「シリア、踏みにじられた人々と希望」が「第8回UNHCR難民映画祭」初日の2013年9月28日、東京・千代田のイタリア文化会館で日本初上映された。370人を収容できる会場は満員で、シリア難民問題への関心の高さがうかがえた。

このドキュメンタリー映画は、祖国シリアからトルコの難民キャンプへ逃れて生活をしている人の証言を中心に構成されている。メディアは連日、シリア内戦について報じているが、この映画ではメディアが伝える「死者の数」や「政府の対応」だけではわからないシリア難民の声を知ることができる。

映画のなかのシリア難民の証言によると、シリア内戦のそもそもの発端は、一般市民が政府に対して言論の自由を訴えたことだという。自由を訴えただけで逮捕・拘束され、拷問や処刑を受け、村への無差別的な襲撃や虐殺が始まった。犠牲者の中にはもちろん、政府に対して何も意見していない人も多く含まれる。映画は、政府軍によって理不尽に村や家を焼かれた怒り、家族や友人を失ったり離れ離れになった悲しみ、情勢が一向に改善しないことに対する失望を映し出す。

自由を求める市民は、政府による攻撃が始まって半年のうちは武器を持たずにただ抗議したという。しかし、彼らが無防備でいても政府軍は攻撃をやめない。このため一部の市民は武器を手に取り、反政府武装組織「自由シリア軍」に加わった。武器を持たない市民も、時には自分の家を売ってまで自由シリア軍を援助した。政府に抵抗できるのは、自由シリア軍だけだからだ。こうした過程を経て、シリア情勢は泥沼化したのだ。

映画内には、難民キャンプで自由シリア軍を支持したり加担する人の姿が多く収められたが、インタビューを受けた人はみんな「相手が武力に訴え、われわれを傷つける政府軍であっても、本当は平和的に解決したい。武力を使いたくない」と言う。そして「一日も早く平和なシリアになってほしい。平和な祖国へ帰りたい」と答えた。人々は暴力と非暴力の間で揺れ、何よりも内戦の解決を望んでいるのだ。

人を傷つけてしまう武器を手に取り自由シリア軍へ入る者もいる一方で、カメラという「武器」を利用しようとする者も現れた。国外から小型のカメラをシリアにいる活動家に渡し、国内の様子を撮影して全世界に発信するのが狙いだ。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所の小尾尚子副代表は「シリアでは、死者10万人、難民210万人と、すぐには想像しえないほど、深刻な数の犠牲者を出しています。映画という入り口から、生身の人間、同じ人間としての怒り、悲しみ、恐怖に心を寄せてほしい。また、自分に無関係なことではないと認識し、考えてほしい」と訴えた。

12年までの難民映画祭ではまず難民のことを知ってもらうことに主眼を置いてきたが、13年は積極的に現状を変えるアクションを起こしてもらおうと、会場では難民支援活動のための募金に加えて、ボランティアとしてNGOへの参加を呼びかけることにしたという。(田中美有紀)