セブを襲った台風ハイエンで損害2000万円、再建に向けた若き農場経営者の挑戦

20160904

死者6000人以上を出した大型台風ハイエンの上陸から約10カ月。被災地のひとつフィリピン・セブでは、少しずつ再建が進んでいる。「稼ぐためではなく、生き延びるために農業をしている」と話すのは、セブ市マラアグで農業を営むライアン・セクレタリアさん(24)。さまざまな支援策に対して「政府の状況が厳しいのはわかる。だが、もっとやれることがある」と不満を漏らす一方、「日本の技術を取り入れた農業をしたい」とこれからの夢についても語った。

■「新しい作物も全て流された」

ハイエンがフィリピンを襲ったのは2013年11月の上旬だ。国際復興支援プラットフォームアジア支部によると、この台風による農業・漁業などの被害額は173億2100万ペソ(約433億円)に上った(2013年12月時点)。

ライアンさんの農園も、ハイエンにより壊滅的な被害を受けた。作物は全て流され、木々の枝が折れて農地に残った。さらに、たまった雨水を好むキノコの一種・バンギーが生えてきて、他の植物を殺してしまった。被害総額は約800万ペソ(約2000万円)だったという。

■政府やNGOも支援に動く

膨大な被害から立ち直るため、ライアンさんが利用したのが、フィリピン政府やセブ市、非政府組織が支給するローンや食料だった。

フィリピン政府からの融資額は5万ペソ(約12万5000円)。返済額が少なくて済むのが特徴だ。これとは別に、緊急援助のため1万ペソ(約2万5000円)のローンも組んだ。また、コーンビーフやイワシの缶詰など、食料も提供した。

セブ市からの融資額は2000ペソ。しかし、6カ月以内にこれを返済すれば、次回から最大1万1000ペソ(約2万8000円)を借りられるシステムだったという。

これら政府の資金源とは別に、非政府組織も支援に動いていた。フィリピンの財閥アボイティスグループの基金は、融資額を4万8000ペソ(約12万円)とするローンを設立した。

■「政府も苦しいのはわかるけれど、もう少し…」

こうした援助活動について、ライアンさんは「支援がなければ我々は生き延びられなかった」とコメントする一方で、支援策に対する複雑な思いも明かす。「フィリピン政府の人々も被災していて、現場が大変だったのもわかる。しかし、もっとできることがあるはずだ。今のフィリピン政府には、効率性が足りていない」

政府に対する要望もある。それは、①ビニールハウスなど農業用機器の支援、②農民に対する教育機会の提供、③市場へのアクセスの改善だ。「こうしたことは、非政府組織にはできず、政府にしかできないことだ。だから行政に動いてほしい」とライアンさんは不満を訴えた。

■「日本の技術を取り入れたい」と膨らむ夢

「ローンの返済が本当に大変だ」と話すライアンさんだが、夢もある。「日本の農業技術を学び、フィリピンで実践してみたい。そのために日本に行って勉強したい」と語る。

人口増加が急激に進み、食料の需要が供給を大幅に上回るフィリピン。日本の技術を使い、その差を是正することで、少しでも食料事情の改善に貢献できれば――。自然に囲まれた農場で、彼の夢は膨らんでいく。(小島彩)