スーパーフードはカルーアミルクの味?ベナン発「タイガーナッツ」のフランスへの輸出始まる

右からタイガーナッツリキュール、パウダー、ローストナッツ。栄養満点で、おいしいスーパーフードはいろいろな用途で食べられる右からタイガーナッツリキュール、パウダー、ローストナッツ。栄養満点で、おいしいスーパーフードはいろいろな用途で食べられる

国連が注目するスーパーフードがある。西アフリカなどの伝統的な食べ物「タイガーナッツ」だ。栄養満点で、アンチエイジングにも効果抜群、しかもカシューナッツのように香り高い。ベナンでは朝食の定番だ。世界的な健康志向の高まりを受け、ベナン産のタイガーナッツがフランス、カナダのスーパーマーケットの棚に並び始めた。

■食物繊維はアーモンドの3

タイガーナッツとは、カヤツグリという植物の根っこにできるイモのことだ。驚くべきはその栄養価の高さ。100グラムあたりの食物繊維量は、アーモンドの約3倍で30グラムにもなる。そのため、胃腸の不調に抜群に効く。数千年前から薬として、ベナン、ナイジェリア、ニジェール、ブルキナファソ、コートジボワール、セネガルなどの西アフリカで使われていた。

美容でもタイガーナッツは大活躍。アンチエイジング効果があるビタミンEの含有量は、アーモンドの約2.5倍。スペインをはじめとするヨーロッパで、人気が高まりつつある。次なるスーパーフードは、タイガーナッツの可能性大だ。

■パッケージ革命起こす

「タイガーナッツを使って、イノベーションを起こしたかった」。こう語るのは、タイガーナッツ専門の食品メーカー「ソサイエティー・オブ・プロダクション・アンド・トランスフォーメーション・オブ・タイガーナッツ」(SPTNT、本社:ベナン・アボメカラビ)の最高経営責任者(CEO)、オーディ・ニョーフィさん(27)だ。同社は2014年に創業した。

1つ目のイノベーションは、パッケージのクオリティーを格段に上げたことだ。タイガーナッツは、ベナンでは道端で、すぐに破れてしまう薄いビニール袋に入って売られている。タイガーナッツの価値を高めるために、SPTNTはジッパー付きで、しかも丈夫な袋を使用。ラベルにはトラの商品ロゴと、地球をイメージした会社ロゴをプリントし、英語でタイガーナッツの栄養価の高さを説明。ニョーフィさんは「消費者が手に取りたくなるようなパッケージにした」と振り返る。

2つ目のイノベーションは、タイガーナッツのパウダーをベナンで初めて商品化したこと。もともとベナン人に親しまれていたのはタイガーナッツそのもの。加工されたものは市場になかった。「おかゆやヨーグルトに入れて食べたり、ケーキの材料に混ぜたり、いろいろな方法で使ってもらおうと思った」。たった10人の従業員でパウダーを開発するには、1年必要だった。パウダー化に成功したことが、その後のリキュール開発にも役立つこととなる。

19年3月現在、SPTNTの商品は主に3つ。パウダー、ローストナッツ、リキュールだ。18年の販売量はパウダー7000パック、ローストナッツ1万4000パック。同年11月に発売したリキュールは2カ月で600本売れた。年間の利益は、60万セファ(CFA)フラン(約12万円)にのぼる。17年からはフランス、カナダ、ブルキナファソ、コートジボワールでも売り出し、売り上げの1割程度は輸出によるものだという。

暑さと煙でダブルパンチ

タイガーナッツの仕入れ先は、国内唯一の産地であるベナン北部。ニョーフィさんは月に2回、バスで1日かけて買い付けに行く。「大変だけど、農家一軒一軒とのコネクションが大事だと思うの。大量に買いたいし」と語る。

タイガーナッツが完成するまでのプロセスはこうだ。第一ステップは、ナッツの中の水分を飛ばすための天日干し。もともとは柔らかいタイガーナッツも、ベナンの強い日差しでカラカラだ。このステップを経ることで、1年間の保存が可能になる。

次のステップはロースト。オーブンは使わず、薪で火をおこし、大きな鍋で煎る。ベナンは1年を通じて最高気温30度前後。暑い中、煙にまみれての作業だ。マスクは必須。これが終わると、機械を使って粉にする。

最後は、専用の部屋でパッケージ。部屋の掃除を徹底し、土足厳禁のルールをつくるなど、衛生面で細心の注意をはらう。ローストナッツのパッケージには、袋代も含めて1個当たり100CFAフラン(約20円)かかる。商品価格500CFAフラン(約100円)の5分の1だ。

1年保存できるリキュールも

タイガーナッツリキュールの開発には2年の歳月がかかった。「日持ちさせるにはどうすればいいか分からず、苦労した。そこでアボメカラビ大学(ベナンのトップ大学)の教授に、アドバイスがほしいとお願いしに行った」とニョーフィさん。

試行錯誤を経て、1年保存可能なリキュールが完成したのは18年11月。タイガーナッツミルクとブランデーでつくったもので、味はカルーアミルクのよう。初めて飲んだベナン人も日本人も、そのおいしさに目を丸くする。

SPTNT のビジネスは、さまざまなコンテストで高く評価された。これまでにスタートアップ企業の優秀賞を5つ獲得。16年には100万CFAフラン(約20万円)の賞金を得た。目覚ましい実績がベナン政府の目にとまり、粉を挽く機械2台の購入費全額をもらった。

19年の目標は輸出量を前年から10倍以上に増やすこと。パウダー1万パック、ローストナッツ2万パック、リキュール5000ボトルという数値目標を掲げる。海外の取引先とのネットワーク拡大で、達成を目指す。

タイガーナッツ専門の食品メーカー「ソサイエティー・オブ・プロダクション・アンド・トランスフォーメーション・オブ・タイガーナッツ」(SPTNT、本社:ベナン・アボメカラビ)の最高経営責任者(CEO)、オーディ・ニョーフィさん

タイガーナッツ専門の食品メーカー「ソサイエティー・オブ・プロダクション・アンド・トランスフォーメーション・オブ・タイガーナッツ」(SPTNT、本社:ベナン・アボメカラビ)の最高経営責任者(CEO)、オーディ・ニョーフィさん

天日干しから生産はスタート

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リキュールのためのタイガーナッツミルクをつくるために、ナッツを水につけて柔らかくする

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ローストはオーブンを使わず手作業で。ただでさえ暑い中、煙にまみれて作業する

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ベナン政府の資金で購入したプロセッサーの機械。粉にするところからパッケージまでの工程は、屋内で行われる

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