「テロで世界の人権が悪化した1年」、ヒューマン・ライツ・ウォッチが2015年を振り返る

0203HRW

2015年は、テロをはじめとする政情不安が影響し、世界各国の政府は人権を侵す方向に動いた――。これは、人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が1月27日に発表した「ワールドレポート2016」の中で明らかにしたもの。ワールドレポートは、世界90カ国以上の人権状況をまとめている。

■テロの汚名を移民に着せるな

テロ対策として英国やフランス、米国は、人々に対する監視能力を強化する方向で動いた。これについてHRWはかねてから、監視能力を強めることがテロ抑止力の増大につながると証明されていない、と反論してきた。

欧州で起きたテロ事件の多くでは実際、テロ実行者を警察は把握していた。にもかかわらず、人手不足で動向を追跡できていなかった。「必要なのは大量のデータではない。標的となる人物を追跡する能力の強化だ」と指摘する。

HRWのケネス・ロス代表は「(テロの)汚名を、移民やマイノリティのコミュニティ全体に着せることも、それが誤りというだけでなく、危険だ。テロリストを集める側にとってみれば、(政府などへの)敵意が生まれることは好都合になる」と説明する。

人権団体・活動家に対する弾圧も激しい1年だった。ロシアは、政権を批判する団体の活動を停止させた。中国は、人権派の弁護士と活動家を逮捕した。またトルコの与党は、政府を批判する活動家やマスコミへの厳しい弾圧を主導した。

エチオピアとインドは、海外からの資金援助を規制し、政府の人権侵害をモニタリングする活動を妨害した。ボリビア、カンボジア、エクアドル、エジプト、カザフスタン、ケニア、モロッコ、スーダン、ベネズエラでは、活動家の動きを抑えることを目的に、あいまいで過度に広範な規定をもつ法律を成立させている。

■同性婚の合法化相次ぐ

その一方で、良かったこともあった。HRWが注目したのは、同性婚がアイルランド、メキシコ、米国で合法化されたこと。モザンビークでは同性愛が犯罪でなくなった。

薬物使用の取り締まりでは、懲罰型アプローチの失敗を踏まえ、カナダやチリ、クロアチア、コロンビア、ジャマイカ、ヨルダン、アイルランド、チュニジア、米国などは非犯罪化に向けた対話を進めている。HRWはこれを評価している。

このほか、男女平等の実現や、誰でも裁判を受けられるようにすることなどを盛り込んだ「持続可能な開発目標(SDGs)」が国連総会で採択されたこと、また、気候変動への対応で各国が「先住民、女性、子ども、移民、その他弱い立場にある人たちの人権を『尊重し、促進し、配慮する』こと」を初めて合意した国連気候変動パリ会議(COP21)もグッドニュースとした。