南スーダンでは都市住民の84%が「安全なトイレ」を使えない! NGOウォーターエイドが報告書

フィリピン・セブ都市圏のスラムの中にあるトイレ

国際NGOのウォーターエイドは、世界の都市人口39億人のうち7億人が水洗トイレなどの「安全なトイレ」を使えずに暮らしているとする報告書「あふれかえる都市-2016年 世界のトイレの状況」を発表した。国別にみると、安全なトイレを利用できない都市住民の比率が最も高いのは南スーダンで83.6%、実数ではインドが最多で1億5719万人に上ることがわかった。この報告書は11月19日の「世界トイレの日」にあわせて公開された。

■インドと中国で2億6000万人

安全なトイレとは、下水管や浄化槽へ流す水洗トイレのように、人間の排せつ物が衛生的に処理されているものを指す。途上国では、都市人口の3分の1(8億6300万人以上)がスラムに住むこともあり、ふたのない下水溝に排せつ物を流し込むトイレを使ったり、道端で用を足したりするケースは普通だ。

安全なトイレを使えない都市住民の比率が高い国は、南スーダン(83.6%)を筆頭に、マダガスカル(82.0%)、コンゴ共和国(80.0%)、ガーナ(79.8%)、シエラレオネ(77.2%)、トーゴ(75.3%)、エチオピア(72.8%)、リベリア(72.0%)、コンゴ民主共和国(71.5%)、ウガンダ(71.5%)がワースト10。サブサハラ(サハラ砂漠以南の)アフリカ諸国が独占した。

ただ、安全なトイレを使えない都市住民を数字でみた場合、最多はインドの1億5719万人となる。以下、中国(1億416万人)、ナイジェリア(5892万人)、インドネシア(3804万人)、ロシア(2423万人)、バングラデシュ(2327万人)、コンゴ民主共和国(2163万人)、ブラジル(2094万人)、エチオピア(1402万人)、パキスタン(1232万人)と続く。ワースト10のうち半分がアジア諸国だ。

ワースト6カ国はいずれも人口が1億4000万人を超える国。地方から都市に流入してくる人数が膨大で、下水道の整備など都市計画が追つけない現状を示す結果となった。

■インドの都市では4103万人が野外排せつ

トイレがないため、野外での排せつが習慣となっている都市住民も世界には1億人もいる。その比率が最も大きいのは南スーダンだ。都市住民の49.8%が日常的に外で用を足す。

2位は、西アフリカの島国サントメ・プリンシペの47.5%。以下、エリトリア(35.9%)、リベリア(27.3%)、ベナン(24.9%)、ナミビア(20.3%)、キリバス(19.7%)、トーゴ(18.0%)、マダガスカル(17.9%)、ナイジェリア(15.5%)の順。ワースト10は、大洋州のキリバスを除き、サブサハラアフリカ諸国が占めた。

数でみると、最多はインドの4103万人。これに続くのが、インドネシア(1801万人)、ナイジェリア(1358万人)、フィリピン(152万人)、マダガスカル(151万人)、ベナン(119万人)、モザンビーク(114万人)、南スーダン(113万人)、エチオピア(111万人)、ロシア(105万人)。ワースト5にアジアから3カ国が入った。冬場は氷点下になるロシアでも、野外排せつを日常にする人がいる。

報告書によれば、インドの都市住民が野外で排せつする量は1日でオリンピックのプール8個分に相当するという。不衛生な環境を理由にインドでは、予防可能な下痢に罹って命を落とす子どもは年間6万8000人以上に達する。

■中国・ブラジル・韓国で改善

2000年と2015年のデータを比べて、安全なトイレを利用できない都市住民の数を減らした国がある。

トップは中国。安全なトイレを利用できない都市住民の数を913万人減らした。これは、都市への人口流入のペースを上回る速さで安全なトイレを設置できていることを意味する。ただ中国では依然として1億416万人が安全なトイレを使えないのが実情だ。

2位以下は、ブラジル(338万人)、韓国(288万人)、ベトナム(282万人)、イラン(249万人)、メキシコ(150万人)、パキスタン(122万人)、アルゼンチン(985万人)、カンボジア(90万人)、ベネズエラ(86万人)。改善の兆しがあるのはアジア、中東、ラテンアメリカの国々。サブサハラアフリカからは1カ国もランクインしなかった。

7位のパキスタンでユニークなのは、行政に頼らず、スラム住民が結束して、衛生環境を改善したケースがあることだ。同国最大の都市カラチには、アジア最大のスラムのひとつオランギタウンがある。このエリアには長年、基本的な衛生サービスがなかった。

ところが住民らが1980年、「オランギ・パイロット・プロジェクト」と呼ばれる組織を立ち上げた。これまでに7万2000世帯にトイレを設置したり、道路を改良したりする活動を支援してきたという。今では長さ4キロメートルの下水管が走るようになった。

■悪化ナンバーワンはナイジェリア

対照的に、安全なトイレを利用できない人の数が増えた国もある。ワースト1位はナイジェリア。増加人数は3141万人と断トツだ。

アフリカ最大の人口(約1億7400万人)を抱えるナイジェリアでは2000年以降、都市住民1人にトイレを届けるたびに、トイレを利用できない人が2人増えるという「一歩進んで二歩下がる」状態に陥っている。トイレがもたらす恩恵を理解していない住民が多いことに加え、ナイジェリア政府も「トイレは本来、各家庭が責任をもって改善されるべきもの」とスラムを放置していることが足かせとなっている。予防可能な下痢で死亡する子どもの数は年間4万4000人以上。

ワースト2位以下はインド(2604万人)、コンゴ民主共和国(1001万人)、バングラデシュ(799万人7000人)、インドネシア(799万5000人)、エチオピア(651万人)、タンザニア(500万人)、ガーナ(468万人)、ケニア(379万人)、マダガスカル(340万人)。

■2030年までに全員にトイレを

報告書は、安全なトイレを都市住民が利用できない理由として、下の5つの理由を挙げる。

1)貧困地区は公共の下水道システムがない。住民は排せつ物を自分で捨てたり、埋めたりする。
2)政治家は、道路や学校など「目に見えるインフラ」を好む傾向にある。住民もまた、状況を変えるのは無理だと考えているため、要望を口にしない。
3)スラム住民の多くは違法居住者。公共事業を実施するうえで障がいになる。
4)予算不足や管理の問題で、衛生設備を維持できない。
5)立地の問題。密集地だと、排せつ物をくみ取るトラックが入れない。

報告書はまた、安全なトイレが利用できないと引き起こされる6つのリスクを指摘する。

1)病気にかかる。毎年31万5000人の子どもが下痢で命を落とす。
2)女性・少女が襲われるリスクがある。家にトイレがないため、暗くなってから静かな場所を探して用を足すため。
3)月経に対応できない。月経が始まる年齢になって退学する少女が多くいる。
4)病院にも安全なトイレがないため、患者や医療従事者は、本来は予防できる感染症に命を脅かされる。
5)病気に頻繁にかかると、生産性のある仕事をしたり、子どもが学校に通い続けたりするのが困難になる。貧困から抜け出せない。
6)保健医療費の支出が増え、生産力が下がる。その結果、その国の国内総生産(GDP)が失われる。

世界人口の3分の2が2050年には都市に住む、との予測もあるほど、止まらない都市化。コレラをはじめ、水が媒介する病気を予防するには安全なトイレの整備は欠かせない。エボラも、病人の血液だけでなく、排せつ物を介して広がる。安全なトイレの設置は、その地域だけの問題ではない。パンデミックを予防するのにも有効だ。

2015年9月の国連総会で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」は、目標6のなかで、「2030年までにすべての人がすべての場所で基本的なトイレを利用できるようにする」とうたう。1125トイレ11125トイレ21125トイレ31125トイレ41125トイレ5

安全なトイレを利用できない都市住民の比率(ウォーターエイドの報告書「あふれかえる都市-2016年 世界のトイレの状況」から引用)

安全なトイレを利用できない都市住民の比率(ウォーターエイドの報告書「あふれかえる都市-2016年 世界のトイレの状況」から引用)